2022年12月30日金曜日

聴音RPGのRTAにおけるクリアタイム予測法の検討

 

1. 緒言


聴音RPG【失われた音問村】[1]のRTAでは、ゲームの進行に必要なアイテムを購入するためにお金稼ぎを行う必要があります。聴音RPGにおいて、お金(通貨単位:ゴールド)は基本的に敵モンスターである音霊を倒すことによってのみ手に入れることができます。したがって、序盤にて音霊とのエンカウントが少なく区間タイムが早い場合でも、その後により多くゴールドを稼ぐ必要があるため、最終的には似たようなタイムとなります。


RTAにおけるクリアタイムの予測は、ある時点までの実際のタイムに、その時点以降の各区間における予測区間タイムを足し合わせることで行われます。足し合わせる予測区間タイムは一定の基準により選択または算出されており、以前のランにおける各区間のベストタイム、自己ベスト時の各区間タイム、各区間の平均タイムなどが挙げられます[2]


聴音RPGのように「稼ぎ」が存在するRTAでは、上述のとおり一部の区間タイムが別の区間タイムに影響を与える場合があります。したがって、このようなRTAにおいて、区間タイムの単純な足し合わせではそのクリアタイムを適切に推定できていない可能性があります。


本稿の目的は、聴音RPGの適切なクリアタイム推定法について検討することです。そのため、ランをいくつかの区間に分割し、それらにおける獲得ゴールド及びタイムについて相関を確認しました。また、確認した相関構造に基づいたクリアタイム推定法を構築し、その推定精度を検討しました。




2. 方法

2.1. 区間の設定

2.1.1. 区間の境界


他のRPGと同様に、聴音RPGもマップ上の位置によってエンカウント情報(エンカウント率及び出現する音霊の種類)が異なります[3]。今回の検討では、エンカウント情報が切り替わる地点を通過するタイミングを区間の境界としました。なお、エンカウント地帯と非エンカウント地帯の転換には境界を設けず、ラスボスとの戦闘は別区間としています。



2.1.2. 区間のグループ化


まず、区間の大きなグループとして、「お金稼ぎ前」「お金稼ぎ時」「お金稼ぎ後」に分けてグループ化しました。このとき、境界は下記となります。

  • お金稼ぎ時:初めて羅猛地区に入ったあと
  • お金稼ぎ後:2回目のデスワープをして、耳鼻科を出たあと

また、お金稼ぎ前をさらに分割し、4つのチェックポイントを設けました。

  • チェックポイント1:煉瓦村のCDを取得して、煉瓦村側の橋を渡ったあと
  • チェックポイント2:音問村の入村証明を取得して、音問村側の橋を渡ったあと
  • チェックポイント3:1回目のデスワープをして、音問村側の橋を渡ったあと
  • チェックポイント4:初めて羅猛地区に入ったあと(お金稼ぎの開始時)

なお、「お金稼ぎ前」「お金稼ぎ」「お金稼ぎ後」にはそれぞれ18、3、9の区間が含まれ、チェックポイント間にはそれぞれ5、5、4、4の区間が含まれています。



2.2. ランのデータの取得


聴音RPGのAny% Glitchlessカテゴリを20周し、各区間におけるタイム並びに音霊の種類及び数を取得しました。タイム計測にはAuto-Split[4]を用いて画像認識により自動的に行い、何らかの理由にて画像認識に失敗した場合には録画を見直して目視にて設定しました。


音霊のカウントにはStream-integrated Counter[5]を用い、区間ごとにAutoHotkey[6]経由でR[7]を起動して音霊の数を集計しました。戦闘後に獲得するゴールドは音霊の種類ごとに一定であるため、区間ごとの音霊の種類と数より獲得ゴールドを算出しました。



2.3. 獲得ゴールドとタイムの相関


取得したデータを用いて、以下の相関を確認しました。

  • 各区間グループにおける合計獲得ゴールドと合計タイムの相関
  • お金稼ぎ前の合計獲得ゴールドとお金稼ぎ時の合計タイムの相関
  • お金稼ぎ前の各チェックポイント通過時のタイムとクリアタイムとの相関



2.4. クリアタイム予測法の検討

2.4.1. クリアタイム予測法の詳細


下記4つのクリアタイムの予測法を用いて、お金稼ぎ前の各チェックポイント通過時におけるタイムと累計獲得ゴールドからクリアタイムを予測し、その予測精度を検討しました。

  • 予測法1:以後の区間における平均タイムの単純な足し合わせによる予測
  • 予測法2:ゴールドとタイムの相関を考慮したモデルによる予測
  • 予測法3:20 周のランのデータからの粗いランダムサンプリングによる予測(まとまった区間グループからのサンプリング)
  • 予測法4:20 周のランのデータからの丁寧なランダムサンプリングによる予測(個々の区間からのサンプリング)

予測法2においては、下記の2つの相関についてそれぞれ一次式による回帰式を構築し、その係数と誤差に基づきクリアタイムを推定しました。詳細については付録1をご参照ください。

  1.  お金稼ぎ前の各チェックポイント後の区間における獲得ゴールドとタイムとの相関
  2.  お金稼ぎ前の獲得ゴールドとお金稼ぎ時のタイムの相関

また、図1に予測法3の概略図を示します。お金稼ぎ前のチェックポイント後の各チェックポイント間、及びお金稼ぎ後について、各区間グループの獲得ゴールドとタイムの組み合わせを20周のランからランダムに選んで組み合わせました。お金稼ぎ時のタイムのみ、上記2.の回帰式を用いて算出しました。これらの組み合わせをさらに細かくして区間ごととし、ランダムに選択したものが推定法4となります。


図1 予測法3の概略(G:ゴールド)




2.4.2. クリアタイムの予測性の検討


各種相関の検討に用いた20周のランについて、各チェックポイント通過時のタイム及び累計獲得ゴールドを用いて、上記4つの推定法よりクリアタイムを予測し、予測法ごとに実際のクリアタイムと比較しました。予測法2についてはモデルに基づく期待値を、予測法3及び4においては100000回の試行における中央値をクリアタイムの予測値としました。


なお、各予測法に用いる各区間(グループ)のタイムの平均値及び分散の算出、各回帰式の構築、並びにランダムサンプリングに用いられるランには、予測対象となっているランのデータも含まれた状態で検討を行っています。



2.4.3. 世界記録到達確率の比較


予測法2、3及び4を用いてAny% Glitchlessカテゴリの世界記録である48分37秒の到達率を推定し、各推定法間で値を比較しました。予測法2では、求めたクリアタイムの期待値と分散について、その期待値と分散を持つ正規分布に従う確率変数が世界記録を下回る確率を計算しました。予測法3及び4では、100000回の試行の内、世界記録を下回る試行の数の割合を世界記録到達確率としました。


Rはv4.1.2を用い、回帰分析にはggplot2パッケージ(v3.3.5)[8]を使用しました。




3. 結果

3.1. 獲得ゴールドとタイムの相関


図2に各区間グループにおける合計獲得ゴールドと合計タイムの相関を示します。お金稼ぎ前、お金稼ぎ時、お金稼ぎ後の各区間グループについて、獲得ゴールドとタイムには正の相関がありました。また、図3にお金稼ぎ前の合計獲得ゴールドとお金稼ぎ時の合計タイムの相関を示します。お金稼ぎ前の獲得ゴールドとお金稼ぎ時のタイムの相関は強い負の相関がありました。


一方で、図4に示すように、お金稼ぎ前の各チェックポイント通過時のタイムとクリアタイムとの相関は弱いか、ほぼありませんでした。


図2 各区間グループにおける合計獲得ゴールドと合計タイムの相関
(R2_adj:自由度調整済決定係数、以下同様)


図3 お金稼ぎ前の合計獲得ゴールドとお金稼ぎ時の合計タイムの相関


図4 各チェックポイント通過時のタイムとクリアタイムとの相関



3.2. クリアタイムの予測性の検討


図5-1~図5-4に、各推定法によるクリアタイム予測値と実際のクリアタイムの関係を示します。予測法1による推定値は全体的に推定精度が悪い一方で、予測法2、3及び4においてはチェックポイント1通過時の予測精度は予測法1と同程度であるものの、ランが進むにつれて推定精度は改善していく傾向にありました。また、予測法2、3及び4において、クリアタイム予測値に大きな差異はありませんでした。


図5-1 チェックポイントごとの予測法1の予測精度


図5-2 チェックポイントごとの予測法2の予測精度


図5-3 チェックポイントごとの予測法3の予測精度


図5-4 チェックポイントごとの予測法4の予測精度



3.3. 世界記録到達確率の比較


予測法2、3及び4により推定した世界記録到達確率の比較を図6-1及び図6-2に示します。いずれも強く相関していますが、予測法2と予測法4による推定確率はほとんど一致しており、回帰式の傾きも1付近となっているのに対し、予測法3は特に確率の低いランについてより低く推定しており、回帰式の傾きも全体的に1より小さい傾向にありました。


図6-1 予測法2と予測法4による世界記録達成確率の比較


図6-2 予測法3と予測法4による世界記録達成確率の比較




4. 考察


お金稼ぎ前の各チェックポイント通過時のタイムについて、クリアタイムとの相関はほとんどありませんでした(図4)。図5-1のとおり、単純な平均タイムの足し合わせである推定法1によるクリアタイム予測は全時点において精度が悪く、図4はそれを裏付けるものと言えます。


一方で、獲得ゴールドとタイムの相関構造に基づく予測法2はモデルのクリアタイムの予測性を改善し、ランが進むにつれてその精度はより良くなりました。図2及び図3において予測法2のモデル構築に用いた相関、すなわち区間グループ内の獲得ゴールドとタイム、及びお金稼ぎ前のタイムとお金稼ぎ時のタイムの相関が確認されていることから、「稼ぎ」の存在するRTAにおいて「稼ぎ」とタイムの相関構造をクリアタイム予測に組み入れることの意義が確認されました。


さらに、予測法2のクリアタイムの予測値は予測法4によるものとほぼ同様でした。クリアタイムの予測値に関して言えば予測法3も同じですが、より極端なタイムである世界記録の到達確率の予測においては、予測法2は予測法3と比較してより予測法4に近い値を示しました。丁寧なサンプリングによる予測法4が最も実際の獲得ゴールドとタイムの分布を反映できているとすると、予測法2は粗いサンプリングによる予測法3と比較して広いクリアタイム範囲において適切にクリアタイムを予測できている可能性が示唆されました。


以上を総合すると、これらの予測法を実際のランにおけるクリアタイム予測に適用する場合、ランダムサンプリングではある程度の実行時間が必要となることから、予測法2による予測が最も実用的であると考えられます。


今後は予測法2を用いて、実際のランで各チェックポイントにおける世界記録到達率を計算し、より効率的な記録狙いを行っていく予定です。聴音RPGのRTAは未だに多数のルートの可能性が考えられ、今回データを取得したもの以外のルートが最適となる可能性も残されていますが、いずれのルートでもお金稼ぎにおけるタイムの相関構造を組み入れたクリアタイム予測は有用です。また、聴音RPGに限らず、「稼ぎ」を必要とするRTAにおいて今回の検討は何かしらの参考になるものと考えます。





付録




参考資料


[1] 洗足オンラインスクール (2017).  聴音RPG【失われた音問村】.  JavaScript版.

[2] Kuhaku_玖白 (2021). LivesplitのComparisonまとめ. 想うが儘にもの作り.

[4] Toufool (2021). Auto-Split.
(当初はv1.6.1を使用していましたが、OBS Studio Ver.28.0へのアップデートに伴いブラウザソースのキャプチャが不可能となったため、途中からv2.0.0α版に切り替えました)

[6] AutoHotkey Foundation LLC. AutoHotkey.

[7] R Core Team (2021). R: A language and environment for statistical computing. R Foundation for Statistical Computing, Vienna, Austria.

[8] Wickham H (2016). ggplot2: Elegant Graphics for Data Analysis. Springer-Verlag New York.

2021年11月23日火曜日

聴音RPGにおける一時的な無敵時間の実現


1. 緒言


聴音RPG【失われた音問村】[1](以下、聴音RPG)は洗足オンラインスクールにて公開されている無料のブラウザゲームであり、ブラウザのCookie機能を利用してデータのセーブとロードを行います。作中ではセーブポイントとしてクッキー屋が各所に配置されており、そこでCookieを更新することによりセーブします。

以前の報告にて、聴音RPGのスピードランではエンカウントの回数をより少なくすることが重要であると述べました
[2]。エンカウントの観点から分類すると、聴音RPGのフィールドは屋外エンカウント地帯、屋外非エンカウント地帯、屋内から成り、これらはそれぞれの境界となるマスを踏むことにより切り替わります。さらに、屋外エンカウント地帯もいくつかの区画に分けられており、それぞれエンカウント率や敵モンスター(聴音RPGでは音霊とよばれます)の種類が異なります。

今回、筆者はCookieの仕様とフィールドの仕様を組み合わせることにより、一時的にエンカウント地帯での音霊の出現を止める方法を発見しましたので報告します。この現象は要するに敵が無くなるわけですから、聴音RPGにおける無敵時間の実現と言えるでしょう。



2. 検討内容


以下の流れで発生条件の検討を行いました。

 ① 屋外エンカウント地帯にあるクッキー屋でセーブ
 ② 非エンカウント地帯との境界にあたるマスを踏んでロード
 ③ ロード後に周辺を移動し、エンカウントの有無を確認


また、対象となるセーブポイント→踏む境界マスの組み合わせは下記のとおりです。

 A. クッキー次郎→煉瓦村の正面門(屋外非エンカウント地帯)
 B. クッキー三郎→煉瓦村の正面門
 C. クッキー三郎→煉瓦村山岳出張所の入口(屋内)
 D. クッキー本舗足洗神宮店→足洗神宮の入口(屋外非エンカウント地帯)
 E. クッキー次郎→(気絶)→煉瓦村耳鼻科診療室の入口(屋内)
 F. クッキー次郎→(気絶)→煉瓦村耳鼻科診療室の入口→煉瓦村の正面門
 G. クッキーの門前堂→(はじめから)→煉瓦村の正面門

EとFについては、戦闘による気絶後に屋内から再スタートとなる仕様を利用し、非エンカウント地帯の内側から境界マスを踏むことを目的としています。Gについては一旦はじめからゲームをスタートし(Firefoxでは「はじめから」を選択したあともCookieが保持されるため)、境界マスを踏んだあとにロードします。



3. 結果


検討の結果、A、B、D、F及びGでエンカウントが無くなり、C及びEでは依然としてエンカウントが発生しました。動画1ではDでの検討例を示しております。セーブデータのロード後にエンカウントが発生しなくなり、音問村と煉瓦村の境界である橋を渡った後に再びエンカウントが発生するようになったことが分かります。


動画1 無敵時間発生の例




4. 考察


4.1. 発生原理


聴音RPGにおいて、ゲームの進行上必要となるフラグはCookieに保存されており、これらのフラグはロードによってセーブ時の状態に戻ります。ところが、マップの境界情報については保持されず、ロード直前の状態を維持するようです。

したがって、ロード直前に屋外非エンカウント地域の境界を踏んでいる場合はその状態が維持され、ロード後はマップ移動によりエンカウント情報が更新されるまでエンカウントが発生しなくなります(検討A、B、D及び動画1)。これは屋外非エンカウント地域の内側から踏んだ場合(検討F)、並びに新しく始めた別データで踏んだ場合(検討G)も同様です。

なお、屋内は全て非エンカウント地帯ですが、屋外非エンカウント地帯とはマップ上での扱いが異なるらしく、同様の現象は発生しません(検討C、E)。



4.2. 実用化における懸念点


屋外エンカウント地帯にあるクッキー屋は下記の5軒です。

  • クッキー次郎(煉瓦村森林出張所)
  • クッキー三郎(煉瓦村山岳出張所)
  • クッキー本舗足洗神宮店(足洗神宮)
  • クッキー本舗音問木屋枯店(音問村木屋枯地区)
  • クッキーの門前堂(音問村羅猛地区)


また、屋外非エンカウント地帯は下記の4箇所にあります。

  • 煉瓦村
  • ジャズ喫茶ズージャ(屋内ながら境界あり)
  • 足洗一番街
  • 足洗神宮


すなわち、音問村内部には屋外非エンカウント地帯がなく、煉瓦村側も屋外非エンカウント地帯とセーブポイントが離れています。また、煉瓦村側は草原、ドワーフの森及びバンダイ山脈の間でエンカウント情報が切り替わり、音問村内部も地区ごとに切り替わるため、非エンカウント状態で動ける範囲は意外と限られています。

唯一屋内非エンカウント地帯に近いのはクッキー本舗足洗神宮店ですが、現行のRTAルートでは足洗神宮の鳥居から入ることこそあれ、出ることはありません。無理やりこのテクニックを利用しようとすると、むしろ回り道によるタイムロスのリスクが高まります。

その他のセーブポイントについては、一度戻るよりは検討Fのようにデスワープするか、検討Gのように新規データで踏みに行くかしたほうが速くなる確率が非常に高いです。ただし、いずれの場合もセーブ後に境界マスを踏んでからロードするまでエンカウント2回ぶんに匹敵する時間を要します。

このテクニックを既存のスピードランルートに適用した場合、歩数が少なくなる分タイムが安定します。ただし、適用しなかった場合でも運がよければ(=エンカウントが少なければ)適用した場合より速く、スピードランにおける記録狙いではどちらを採用すべきか悩ましいところです。さらに、このテクニックはエンカウント2回分の時間を消費するものの、実際に2回エンカウントするのと違ってゴールドが手に入らないため、金銭管理が重要になる
聴音RPGのスピードランではデメリットとなる恐れがあります[2]



5. 結語


以上、聴音RPGにてエンカウント地帯の一時的な非エンカウント化、いわゆる無敵時間の発生を実現させる方法を紹介いたしました。このテクニックは発生条件が限られており、スピードランにおいてはむしろ遠回りとなる恐れがあることから、適用箇所に関する慎重な検討が必要です。また、今回の発見はセーブデータのロード後に維持される要素の存在を示唆しており、マップ情報以外の要素についても同様の検討が待たれます。






参考資料


[1] 洗足オンラインスクール (2017).  聴音RPG【失われた音問村】.  JavaScript版.

2021年8月8日日曜日

聴音RPG攻略の手引き 第四部

 

4. 聴音の練習について


聴音 RPG の攻略自体が聴音の練習になるのですが、ある音霊のみについて対策したい場合もあるかと思います。第四部では音霊の個別対策となる聴音 RPG 以外のコンテンツ等を紹介し、一連の攻略記事の結びとします。



4.1. オンラインコンテンツを使用した練習

 

4.1.1. 洗足オンラインスクール内のコンテンツ

 

4.1.1.1. ワオーン・デスマッチ



図 4-1 ワオーン・デスマッチ[1]

 
和音聴取の音霊であるワオーンとの戦闘のみを行えるプログラムです。和音の種類が選べ、三和音のみ(ワオーン・トライトーン相当)、七の和音のみ(ワオーン・セブンス相当)、全和音(ワオーン・マスター相当)という形で難易度調整が可能です。

他のオプションについて、聴音 RPG のワオーンは「転回形を含む」「広い音域」から出題されますが、ワオーンに全く歯が立たないという方でしたら「基本形のみ」「中音域のみ」の設定から慣れていきましょう。



4.1.1.2. ネイローンの逆襲



図 4-2 ネイローンの逆襲[2]


音色聴取の音霊であるネイローンとの戦闘のみを行えるプログラムです。全く同じというわけでなく、楽器の種類や演奏されるフレーズ、楽器群の組み合わせ(ボス戦の音色聴取は管打鍵盤楽器)が異なっています。

しかしながら、聴音 RPG にあって本プログラムにない楽器はチューバ、アコーディオン、シンセサイザーくらいで、弦楽器など新規に追加されたものもあるため、聴音RPG と組み合わせることでより多くの楽器の音色に親しむことができます。また、楽器紹介ページには写真も載っているので[3]、楽器の理解ヘの一助となるでしょう。

 
 

 

 

 

4.1.2. 洗足オンラインスクール外のコンテンツ


洗足オンラインスクールのコンテンツには、単音聴取(タノン系)と音程聴取(インターバルーン系)の個別練習はありません。もっともこれらはかなり単純なものですので、探せばスクール外にも類似したコンテンツを見つけることができます。今回は musictheory.net というウェブサイトより、それぞれの個別練習プログラムを紹介します[4][5]



4.1.2.1. Keyboard Ear Training

 
単音聴取の個別練習です。Question Note から再生される音の高さを鍵盤で回答します。本プログラムには参照となる音(Reference Note)が付属しているので、相対音感の練習にも対応しています。

初期状態では白鍵のみで音域も狭いですが、設定(右上の歯車)より Keys で黒鍵からも出題されるよう変更し、Range で出題音域を広げることができます。その他、楽器を変えたり(Instrument)、音名だけでなくオクターブの違いを判別するようにしたり(Range)と、より難度を上げて練習することも可能です。



4.1.2.2. Interval Ear Training

 
音程聴取の個別練習です。UI の長音程(Major)と短音程(Minor)の左右が逆、増四度が”Tritone”(三全音)になっているなど、細かな違いはありますが、おおよそインターバルーン系の戦闘と同じ感覚で練習できます。

初期状態では 2 つの音が同時でなく別々に再生されますが、これも設定中の Playmode で同時再生へ変更可能です。複音程についても Intervals で設定でき(9th, 10th, … , Double Octave)、単音聴取と同様に楽器と音域も変更できます。

 
 

 

 

 

4.2. 実際の音楽作品


実際の音楽作品について音高、音程、和音、音色等を意識して聴くことにより、聴音 RPG にて各要素が独立して出てきたときに記憶上で参照できるようになります。また、分析的に音楽を聴き取ることで楽曲への理解も深まりますので一石二鳥です。ここではクラシック音楽からいくつかの例を挙げておきます。
 
 
バルトーク・ベーラ『管弦楽のための協奏曲』より第二楽章[6]



 
「対の提示」、または「対の遊び」と呼ばれる楽章で、ファゴットによる(ほぼ短)六度、オーボエによる(おおよそ短)三度、クラリネットによる短七度、フルートによる完全五度、トランペットによる(ほぼ長)二度の旋律が次々に現れます。

 
 
エリック・サティ:ジムノペディ第一番[7]


 
 
冒頭の伴奏がソ及びレを根音とする長七和音より構成されます。
 
 
 

グスタフ・マーラー:交響曲第七番より第一楽章[8]



 
 
冒頭がソ#を根音とする導七和音より構成されます。



 
 
 

4.3. 発展的な聴音練習

 
第一部にて、聴音 RPG は音楽大学の入試に用いられる旋律聴音や和声聴音といった音楽的文脈を伴う聴音課題から、単一の要素を抽出したものであることを説明しました。洗足オンラインスクールには入試用の聴音課題に関するコンテンツも充実していますので、聴音 RPG で物足りなくなった方は挑戦してみるのもよいでしょう[9]。収録されている課題は音楽大学の入試対策から、より難度の高い範囲まで対応しています[10]

もちろん、聴音 RPG の RTA 走者である筆者としては、聴音 RPG 攻略後にはスピードランにも挑戦していただけると嬉しく思います。実際のところ 5 秒という解答時間は音楽の時間の流れと比較して非常に長いので、スピードランを通して直感的に音楽の各要素を判断する能力を培うことは決して無駄にはならないでしょう。



音を聴くことと音楽を聴くことは異なるものですが、音を聴くことが音楽を聴くことの礎となるのは間違いありません。音問村の謎を解いた暁には、皆さんの愛する音楽に更なる神秘と輝きがもたらされることを願っています。








参考資料

[1] 洗足オンラインスクール. ワオーン・デスマッチ.

[2] 洗足オンラインスクール. ネイローンの逆襲.

[3] 洗足オンラインスクール. 楽器紹介ページ.

[4] musictheory.net. Keyboard Ear Training.

[5] musictheory.net. Interval Ear Training.

[6] Bartók, B. Concerto for Orchestra, Sz.116. Boosey & Hawkes.

[7] Satie, E. 3 Gymnopédies. Edition Peters.

[8] Mahler, G. Symphony No.7. Bote & Bock.

[9] 洗足オンラインスクール. 聴音.

[10] 洗足オンラインスクール. なんでも相談室 No.819.

2021年7月15日木曜日

聴音RPG攻略の手引き 第三部

 

 

3. ワオーン系の攻略 

 

3.1. ワオーン系総論


ワオーンとの戦闘では三和音又は四和音の聴取を行います。絶対音感保持者について、インターバルーンとの戦闘では二つの音の高さから音程を逆算することが比較的容易でしたが、ワオーンとの戦闘では三つないし四つの音の高さを5秒の回答時間中に聴取するのは困難です。したがって、絶対音感保持者であっても和音の種類を直接判別するのがよいと考えます。

第三部では、三和音及び四和音について、それぞれ判別のためのフローチャートを示します。第二部において「短二度、増四度、長七度については直感で判断できるようにしておくこと」と記載したとおり、ある和音に特徴的な音程を元に判別する方法です。



 

3.2. ワオーン・トライトーン



図3-1 ワオーン・トライトーン[1]


ワオーン・トライトーンとの戦闘では三和音の聴取を行います。選択肢は長三和音、短三和音、減三和音、増三和音の四つです。これらは図3-2のような流れで判別可能です。



図3-2 三和音の判別


最初のステップについて、長三和音が明るい感じで短三和音が暗い感じというのは洗足オンラインスクールによる攻略ページの記載と同じです[2]。減三和音及び増三和音が奇妙に聞こえるのは完全音程(完全四度及び完全五度)が含まれないことも一因かと思います。

戦闘に慣れていくと減三和音と増三和音の聴取は直感で判別できるようになりますが、慣れないうちは減三和音に含まれる増四度の響きを聴き取るように意識すると多少の手掛かりにはなります。ワオーン系は全ての転回形を出題してくるものの、図3-3のとおり、減三和音についてはいずれの転回形も必ず増四度を含むので、常にこの方法で確認可能です。

なお、増三和音については全ての転回形で長三度を含み、長三度は減三和音に含まれませんので、長三度に注意を向けることでもこの2和音を判別可能です。本稿ではより響きの特徴的な増四度に焦点を当てています。


図3-3 減三和音と増三和音の転回形



 

3.3. ワオーン・セブンス



図3-4 ワオーン・セブンス[1]


ワオーン・トライトーンとの戦闘では七の和音(根音に対して七度となる音が付加された和音)の聴取を行います。選択肢は長七和音、短七和音、減七和音、属七和音、導七和音の五つです。ワオーン・トライアドより選択肢が一つ多いので、図3-5のように判別のためのステップ数が増えています。



図3-5 七の和音の判別


七度の音程が不協和音程なので全体的に濁った響きにはなりますが、増四度を含まない長七和音と短七和音は増四度を含む和音よりも比較的澄んだ響きになります。長七度と短七度はいずれも長三和音と短三和音をその中に含むため判別が困難ですが(図3-6)、長七和音は響きが特徴的な長七度又は短二度を含むため、ここに意識を向ければ判別可能です。なお、これらの音程は短七和音だけでなく他の七の和音にも含まれない音程のため、長七度又は短二度が聞こえたら長七和音が確定します。

増四度音程を含む三つの和音の判別についてはかなり主観的な言葉で記載しています。減七和音が他の二つの和音よりも鋭い印象を受けるのは、この和音のみ完全音程(完全四度又は完全五度)を含まないためかと思います。残った二つの和音について、属七和音は長三和音を含むためやや明るく、導七和音は短三和音を含むためやや暗く聞こえます(図3-6)


図3-6 七の和音の基本形と三和音の関係



 

3.4. ワオーン・マスターとボス戦


ワオーン・マスターとボス戦では、三和音と四和音の両方が選択肢となります。四和音は根音に対して七度の音の響きが独特なので基本的に三和音と間違えることはないのですが、唯一減三和音は減七和音との混同に注意が必要です。

減七和音は構成音からどのように3音を取っても減三和音になる性質を持ち(図省略)、非常に響きが似通っています。減三和音又は減七和音らしき音が聞こえてきたら、慌てずに音の数を数えると取り間違いが少なく済みます。ただしボス戦で体力が残り少ないときなど精神的に追い詰められた状況では、減三和音から聞こえないはずの四つ目の音が聞こえ始めますのでお気を付けください。


以上、ワオーン系の音霊の攻略法について述べました。音霊には他にネイローン系(楽器の音色)とフーズワークス系(作曲家)がいますが、いずれも聴取の対象が具体的であり、出題対象さえ覚えてしまえば簡単なので省略します。第四部では洗足オンラインスクール内外のコンテンツを利用した各音霊の個別対策などに触れ、一連の攻略記事の結びにしたいと思います。





参考文献


[1] 洗足オンラインスクール (2017). 聴音RPG【失われた音問村】.  JavaScript版.

[2] 洗足オンラインスクール. 失われた音問村 攻略法.

2021年6月21日月曜日

聴音RPG攻略の手引き 第二部

 

 

2. タノン系とインターバルーン系の攻略


2.1. インターバルーン系と他の系統の音霊との関係


聴音RPGでは最初に音高聴取の音霊であるホワイト・タノンに出くわす場合が多いのですが、本稿ではその攻略法については詳述せず、音程聴取の音霊であるインターバルーン系の攻略法を記載することでその代替とします。なぜならば、絶対音感保持者にとってタノン系は(絶対音感の定義なので)対策の必要が無く、非保持者にとってはインターバルーン系より困難だからです。

図2-1に相対音感でタノン系と戦う際の思考の過程を示しています。この図のとおり、相対音感では音程から音高を判断するため、タノン系はインターバルーン系の発展と見なせるように思います。もしも絶対音感なしでタノン系が倒せるのであれば、音程の感覚と用語(長二度、短三度など)を対応させるだけでインターバルーンにも対処可能です。


図2-1 相対音感による音高判定の過程



インターバルーン系の音霊との戦闘で鳴らされる音は2音ですので、絶対音感保持者はちょうど非保持者と逆の過程により、時間内にその2音を聴取して音程を導くことができれば問題ありません。ただし解答時間が5秒程度しかなく、音高と音程の対応がしっかりできていないと解答は困難ですので、その場合は後述の直接音程を判定する方法を参照すると楽かもしれません。また、和音聴取の音霊であるワオーン系のため、短二度、増四度、長七度については直感で判断できるようにしておくことをお勧めします。



2.2. ナロー・インターバルーン



図2-2 ナロー・インターバルーン[1]



ナロー・インターバルーンの5つの選択肢について、二度は不協和音程、三度は不完全協和音程、完全四度は完全協和音程です。また、短二度は長二度と比較してより不協和度が高く聞こえ、同じ不完全協和音程でも短三度は暗く、長三度は明るく聞こえます。すなわち、ナロー・インターバルーンの範囲では選択肢の一番上の短二度が最も濁っており、下に行くにつれて澄んだ音になっていきます。


2.2.1. 二度


長二度と比較し、短二度は極めて強い不協和感をもたらします。最も協和感のある完全一度(全く同じ2音)から2音の間隔がさほど開いていないため、完全一度に向かおうとする力が強いのだと思います。また、短二度では2音の周波数の差が小さく、低い音域ではうなりを伴う一つの音として認識されることもあります。

ワオーン系の説明をする際にも触れますが、古典的な文脈で短二度が現れる機会は長二度と比較して少ないため、クラシック音楽に慣れた耳では特に異様に聞こえます。近年では短二度も頻繁に使用されるようになりましたので、この感覚は音楽的なバックグラウンドによって異なるかもしれません。


2.2.2. 三度


三度の長短については二度の長短ほど差が大きくなく、判別が困難です。先ほど短三度は暗く、長三度は明るく聞こえると述べましたが、これは図2-3のようにそれぞれ短三和音と長三和音の第五音が省略された形として認識されるためかと思います。



図2-3 三度音程と三和音の関係



ただし、聴音RPGでは通常3回連続で聴取する必要があるため、響きの明暗で判別する際には連続する音による調的な錯覚に注意が必要です。図2-4はその例ですが、3つの音を連続して聞いた際にハ長調の終止形のように聞こえるため、最後のミとソが明るく聞こえてしまいます。それぞれの音について、調性的文脈から切り離し、独立した音として聴取することが重要です。




図2-4 音程聴取における調的な錯覚



インターバルーンに限らないのですが、音霊は非常に広い音域から音を出してきます。特に低い音域ですと、いずれの音程もより濁って聞こえてくるものです[2]。様々な音域について各音程の響きの感覚をつかむことはインターバルーン系だけでなく、ワオーン系の攻略でも重要になってきます。



2.3. インターバルーン



図2-5 インターバルーン[1]



名前から「ナロー」が取れたインターバルーンは選択肢が1オクターブ(完全八度)まで広がっていますが、実は図2-6に示すとおり、増四度を軸として対称になっています。すなわち、完全五度は完全協和音程、六度は不完全協和音程、七度は不協和音程ですので、2つの音の間隔を聴取して狭ければ二度から四度、広ければ五度から七度より協和度に応じて選択すればよいということになります。



図2-6 音程間の関連




2.3.1. 増四度と完全五度


対称とはいえ四度と五度は2音の間隔の差が少なく、同じ完全協和音程ですので判断が難しいかもしれません。完全五度のほうが協和性が高いとされており[2]、時として融合して一つの音のように聞こえることがあります。増四度は不協和音程であり、これら協和性の高い音程に挟まれているためか不安定な響きを持っています。


2.3.2. 六度


六度の長短の判別は筆者が最も苦手としているところです。長三度と対称になっているのは短六度であり、そちらのほうが明るく感じられるような気もするのですが、協和性については長六度のほうが高いとされています[2]。ひょっとすると絶対音感非保持者のほうが音高に惑わされないため有利なのかもしれません。

以下に判別方法の例を挙げます(筆者は音を足す方法を採用しています)。なお、これらの判別方法は他の音程でも応用が利くので、苦手な音程について自分なりの判別方法を見つけてください。

・頭の中で音を動かしてみる:高いほうの音を半音下げ、完全五度になったら短六度
・頭の中で音を足してみる:低いほうの音の完全五度下の音を足し、長三和音になったら長六度、短三和音になったら短六度(図2-7)


 

図2-7 六度音程と三和音の関係




2.3.3. 七度


短七度と長七度の協和性についてはさほど差が無いのですが、完全八度(1オクターブ)との差が少ないからか長七度のほうがより不協和度が高く聞こえます。短二度と対称になっている長七度はやはり古典的な文脈での使用頻度が短七度より低く、クラシック音楽に慣れた耳では強い違和感を覚えます。

これらの聴体験は人により異なることもあり、自分なりに言語化することが重要です。本稿については、協和性に関してはなるべくreview論文[2]を参考にし、主観的な部分については「~と思います」「~かもしれません」等不確実性を示す記載をしています。自らの感覚についてより理論的な裏付けが欲しい場合は該当する文献を参照してください。



2.4. ワイド・インターバルーンとボス戦


ワイド・インターバルーンとボス戦では、複音程(1オクターブとn度)の聴取をする必要があります。通常のインターバルーンと難度の点で大きな差はありませんが、二度(九度)を構成する2音の間隔が七度に近づくため、2音の上下をしっかりと確認する必要があります。

一方、長短三度の判別と完全四度・完全五度の判別は容易になります。2音の間隔が開くことにより、融合度(二つの音が一つの音として聞こえる度合)は低下するものですが、長三度や完全五度は融合度が損なわれにくく、他方との差が大きくなるためかと思います。この現象についてより深く理解するためには、参考文献および倍音に関する資料を参照してください。

ボス戦では選択肢が増・減・重増・重減音程のみになっています。混乱を誘いますが、戦闘を重ねるうちに規則性が見えてきますので、諦めずに挑戦してください。規則性に頼らず実力で突破する場合、長・短・完全音程での聴取後に増・減・重増・重減音程に変換して選択肢を絞り込む、という過程を5秒以内に行う必要があるため、各音程の相関(重増四度=完全五度=減六度など)を暗記しなければなりません。



2.5. タノン系(相対音感用)


第二部冒頭で述べたとおり、絶対音感非保持者がタノン系と戦うためには基準となる音が必要になります。洗足オンラインスクールの攻略ページや、ゲーム内でも鍵盤楽器の併用が推奨されています[3]ので、適宜音を鳴らしながら対処していきましょう。基準となる音との音程関係が把握できていないとすぐに音名が出てこないため、慣れないうちは基準となる音を固定しておくとよいかもしれません。

鍵盤楽器の併用のため、各音霊は戦闘開始前にFIGHTボタンを押す仕様になっています。ただし、戦闘開始後は次々に音が鳴りますので、正解不正解を問わず回答後に基準となる音を鳴らしておく癖を付けておくと良いでしょう。また、慣れてきたらゲーム内の音を基準にタノンの音を聴取するようにすれば、絶対音感保持者と同等の速さで対処できるようになるかと思います。参考までに、フィールドの音楽はホ長調、音問村の音楽はハ短調(内部転調が多いですが)、正解したときのSEはラ-ファです。タノンが出した音を基準に次の音を聴取することもできますが、間違えても正解は表示されないので間違い続けてしまう可能性があります。


以上、インターバルーン系とタノン系の攻略法について述べました。第三部ではワオーン系(和音聴取)の攻略法を説明していきます。第二部の内容が前提になりますので、第三部に進む前にタノン系、インターバルーン系についてはそれなりに対処できるようになっていることをお勧めします。また、相対音感の獲得に関する大人向けの文献はほとんど有りませんので、こういうところが難しい、というご質問やご意見は非常に貴重です。なにかありましたらTwitter、Twitch、Discord等にて筆者にご連絡ください。

 

 


参考文献


[1] 洗足オンラインスクール (2017). 聴音RPG【失われた音問村】.  JavaScript版.


[2] 山本由紀子 他 (2015). 協和感研究の動向と課題 -聴覚的協和感を中心として-. 認知科学, 22(2), 282-296.


[3] 洗足オンラインスクール. 失われた音問村 攻略法.


 

他に日本語で読める文献として下記のpp. 327-333を挙げますが、1968年初版の著作を編集したものであるため、記載された研究結果に関する現在の知見については調査が必要かもしれません。私も必要に応じて検討したいと思います。 

伊福部昭 (2008). 完本 管絃楽法. 音楽之友社.

 

また、第二部で登場した用語が分からない場合は洗足オンラインスクールの楽典解説(音程和音の種類)にて復習してください。

2021年5月9日日曜日

和声の祭典と地球の旋律線でRTAを行う際のルール案

 

 

1. はじめに


先日行われた『ベストオブ謎RTA選手権』[1]にて、四分休符の踊り食いは喉に刺さりやすいので注意 氏(以下、しぶぐい氏)が『和声の祭典』を走り見事ベストオブ謎RTA(ニコニコ動画側)を勝ち取りました。投票してくださった皆様、理解った方も理解らなかった方もありがとうございました。また、運営の皆様方も、理解らないのが前提という企画コンセプトに甘えて放り投げた(と、しぶぐい氏が語っていました)動画と走者コメントを見事に捌いていただき大変感謝しております。しぶぐい氏に代わりまして御礼申し上げます。

ご存じのとおりしぶぐい氏はなかなか表に出てこない方ですので、筆者がこのRTAの解説記事を書くようにしぶぐい氏より依頼を受けました。そこで、今回は筆者が日常的にRTAを行っている『和声の祭典』[2]と『地球の旋律線』[3]について、概要とルール案を説明させていただきます。なお、これらのRTAは後述の理由でSpeedrun.com等にページを作成する予定はありませんので、あくまでルール「案」となります。



2. 各システムの概要


『和声の祭典』及び『地球の旋律線』は、いずれも洗足オンラインスクールにより開発された、音楽理論の自動採点システムです。前者は和声学、後者は対位法の課題を解くもので、複数の旋律を美しく調和させる技法が対位法であり[4]、それにより生じた縦の音の響き(和音)とその進行(和声)を探求する学問が和声学となります[5]

各システムの解答は一定の規則に基づき採点されます。なお、これらの規則については統一された見解があるものでなく、例えば『和声の祭典』では採用している教材のうちより自由度の高い基準を用いており[6]、『地球の旋律線』での採用教材の一つである『パリ音楽院の方式による厳格対位法』では対位法の各教材における基準の比較と考察がなされています[7]。また、これらの基準を適用してなお、各システムの課題にはある程度の自由が残されており、同程度の点数の解答であっても解答者によって内容は異なります。しぶぐい氏がベストオブ謎RTA選手権にて「並走に適した」と評しているのはこのためです。

『和声の祭典』は100点満点の減点方式、『地球の旋律線』は「良い旋律の時に30000点を超えるような感じ」[8]で採点されています。その仕様から、筆者としぶぐい氏は現在『和声の祭典』について「和声学課題集II 全6部100点」、『地球の旋律線』について「全4類 上下声 30万点」のカテゴリでRTAを行っています。以下にそれらのルール案をお示しします。



3. ルール案


3.1. 和声の祭典(和声学課題集II 全6部100点)


A. 『和声の祭典』の和声学課題集 IIについて、「第1部 II7の和音」から「第6部 付録」までの各部より1課題ずつ選択する
- 和声学課題集 Iはより平易な内容になっていますので、初めての方にお勧めです

A-1. 課題の選択はランダムとする
  •  筆者はかなり雑な課題選択システムをExcelで作成しています。必要でしたらお声がけください

A-2-1. 課題の選択はタイマースタート前1分以内に行う

A-2-2. 各課題へのリンクはタイマースタート後に開く

B. 各課題について、100点になるまで解答と修正を繰り返す
  • 見直しをして一発100点を狙うよりもコンピュータにチェックしてもらったほうが速くなります。何回もRTAを行っていると最初の解答でより高い点数が取れるようになっていきます

C. 100点を取得したら次の課題へ進む
  • 課題の順番自体は指定しませんが、固定しておくとスプリットタイムの管理が楽かと思います

C-1. 全6部で100点を取得した時点でタイマーストップとする


3.2. 地球の旋律線(全4類 上下声 30万点)


A. 『地球の旋律線』の和声学課題集 IIについて、「第1類(全音符)」から「第4類(二分音符 移勢)」までの各類と上下声の計八つの組み合わせで1課題ずつ選択する

A-1-1. 洗足オンラインスクールの定旋律を使用する

A-1-2. 旋法は自由とする

A-1-3. 1から14までの定旋律より選択する
  • 15から20までの定旋律は、対位法課題に用いられる旋律としてあまりにも逸脱しているため除外します

A-2. 課題の選択はランダムとする

A-3-1. 課題の選択はタイマースタート前1分以内に行う
  •  『地球の旋律線』に関しては選択内容が豊富なので、1分間でできる限り準備しておく必要があります

A-3-2. 各課題へのリンクはタイマースタート後に開く

B. 各課題について、合計得点が30万点になるまで解答と修正を繰り返す
  • 初めての方は25万点を目標に行うのが適切かと思います。上級者は35万点を目指すのも良いかと思いますが、選択された問題によっては達成不能となる可能性があります

C. 別の課題を解答したあと、先に解答した課題に戻って解答しても良い

C-1. 合計得点が30万点に達した時点でタイマーストップとする
  • こちらについても雑な課題選択・得点計算システムをExcelで作成しています。必要でしたらお声がけください


3.3. オプションのルール


下記は各個人の学習目的に応じて適用の有無を選択可能です。タイムに影響を与えるものもあるため、場合によっては別カテゴリの扱いになるかもしれません。

X-1-1. 各システムの音声機能(再生、クリック時に和音を鳴らす、など)を使用しない

X-1-2. 外部の音声(楽器など)による確認を行わない
  • 各システムの音声、外部の音声共に筆者は使用していません。基本的に使用しないほうが速いですが、『和声の祭典』でシャープやフラットの多い調が出てきたときは欲しくなります

X-2.(和声の祭典のみ)100点取得後、次の課題のリンクを開く前にタイマーを停止させることができる
  • 配信映え用です。タイマーを止めて100点の解答を再生したりしています

X-3. 初回で一定の点数を取得できなかった場合は課題を選択しなおす
  • 現時点では採用していません。筆者の技量だと『和声の祭典』は70-80点、『地球の旋律線』は1.5-2万点あたりにすると程よい手ごたえになりそうです。「初回で」の条件を外すと泥沼になる予感がします



4. 実施例


動画1に『和声の祭典』の、動画2に『地球の旋律線』の実施例を示します。なお、動画1についてはしぶぐい氏よりベストオブ謎RTA選手権応募時の動画をお借りしました。


動画1 『和声の祭典』RTA実施例


動画2 『地球の旋律線』RTA実施例



5. おわりに


以上、『和声の祭典』及び『地球の旋律線』の概要とルール案について説明いたしました。ここで提示したルールに基づくと、全ての課題について解答を事前に用意しておくか、解答を暗記した課題が出るまで選択を繰り返すかすればベストタイムを出せることはRTA走者であれば容易に想像できるかと思います。あくまで対位法及び和声学の練習を目的としているため、筆者やしぶぐい氏は現時点でSpeedrun.comへの申請等は行っておりません。

しぶぐい氏も言及していましたが、このRTAが映えるのは並走です。同じ課題に対して目標となる点数を取るまでの時間を競うスピードランフェイズと各々の解答の美しさを語り合う感想戦フェイズで二度おいしい並走となるはずです。残念ながらしぶぐい氏は筆者との共演がNGとのことですので、今回のしぶぐい氏のベストオブ謎RTA受賞、そして筆者のこの記事を通じて走者が増えることを願っています。





参考文献

 




[2] 洗足オンラインスクール. 和声の祭典.


[3] 洗足オンラインスクール. 地球の旋律線.


[4] 洗足オンラインスクール (2020). 地球の旋律線 News Release.


[5] 島岡譲 他 (1998). 総合和声 実技・理論・分析. 音楽之友社.


[6] 洗足オンラインスクール. 和声学 学修支援システムについて.


[7] 山口博史 (2013). パリ音楽院の方式による厳格対位法. 第2版, 音楽之友社.


[8] 洗足オンラインスクール. 地球の旋律線 システムについて.

2021年5月3日月曜日

聴音RPGにおける先行入力を利用した無停止会話



1. 緒言


聴音RPG【失われた音問村】[1](以下、聴音RPG)の移動の特徴として、筆者は既報にて先行入力の蓄積を報告しました。また、これを利用してエンカウント後スリップを意図的に発生させるための走法、ヴィブラート走法及びトレモロ走法を提案しました[2]

エンカウント後スリップにより実質的な総移動歩数の短縮及びエンカウント数の削減が期待されますが、実際にエンカウント数が削減されるか、あるいは不変なのかは不明です。本報告では、エンカウント後スリップの原理について考察を深めるため、先行入力の蓄積という現象そのものについての詳細な検討を行いました。

筆者はまず、先行入力によってマップのどの地点の情報が得られているか、すなわち、読み込まれている情報が主人公がその時点で存在する位置の情報か、それとも先行入力反映後の情報か、という検証を行いました。続いて、移動以外の先行入力が蓄積されるか検討するため、先行入力によるキャラクターとの会話を試みました。



2. 方法


2.1. マップ情報読み込み


音問村入村許可証を得ずに音問村への橋を渡るとき、右端に到達してさらにカーソルキーを右に押すと図1のとおりのメッセージが発生します。本検討においては図2に示した地点Aから地点Bまでを移動し、図1のメッセージを出すまでのキー操作を先行入力しました。必要となるキー操作は右矢印キー13回(移動12マスとメッセージ出現)となります。
 
 
図1 音問村の入村許可証を所持していないときに表示されるメッセージ



図2 マップ情報読み込みの検討時の移動地点



2.2. 先行入力による会話


先行入力による会話の可能性を検討するため、図3に示した地点Cから地点Dまで移動し、直上のマスのキャラクターと会話するまでのキー操作を先行入力にて行いました。必要となるキー操作は上矢印キー5回、右矢印キー10回、上矢印キー1回、スペースキー4回です。
 
 
図3 先行入力による会話の検討時の移動地点



3. 結果


3.1. マップ情報読み込みの検証


動画1に非エンカウント時の挙動を、動画2に橋の右端でエンカウントした際の挙動を示しました。エンカウントしていないとき、キー操作を終えた時点でメッセージが表示されました。同様に、エンカウント時にはキー操作終了時点でエフェクトが発生されましたが、13回の右矢印キーを入力してもメッセージは発生しませんでした。


動画1 非エンカウント時のマップ情報読み込みの挙動


動画2 エンカウント時のマップ情報読み込みの挙動


3.2. 先行入力による会話


動画3に先行入力による会話の実施例を示しました。地点Dに到達する前に主人公が上を向き、会話メッセージが発生しているのが分かります。先行入力によりキャラクターの前で停止することなく会話することが可能でした。


動画3 先行入力を利用した無停止会話



4. 考察


マップ情報の読み込みの結果から、聴音RPGでは主人公の描画上の位置でなく先行入力反映後の位置の情報を読み込んでいると推測されます。動画1においては地点Bに到達する前に入村許可証に関するメッセージが表示されています。動画2では先行入力反映後の位置が地点Bに到達した時点でエンカウントしたため、入力直後にエンカウントのエフェクトが発生したもののメッセージは表示されなかった(13回目の右矢印キーが反映されなかった)と考えられます。

これらの推測が正しいものとすると、エンカウント後スリップという名称は正確でなく、実際にはスリップ後の位置でエンカウントしていたものが、先行入力によって移動中にエンカウントの情報を取得したためにスリップしているように見えるだけである可能性があります。このことから、エンカウント後スリップによるエンカウント数削減効果は期待できないことが示唆されました。

一方で、動画3に示したとおり、先行入力は移動のみならず会話にも適用可能であることが分かりました。会話の先行入力をスリップ中に行う都合上、移動の先行入力についても十分に行う必要があり、事前にトレモロ走法による長距離の移動が要求されます。その際にエンカウントが生じると先行入力が解消されるため、スピードランにおいては基本的に煉瓦村や建物内のような非エンカウント地帯での適用を優先すべきです。このテクニックにより会話のための一時停止が不要となり、1回の会話あたり1秒弱、全体として10-20秒の短縮に繋がることが予想されます。




5. 結語


先行入力の性質に関する詳細検討により、先行入力反映後の位置情報が即時に取得されていることが示唆されました。これにより、エンカウント後スリップという名称は正確でなく、スリップによるエンカウント数削減は期待できない可能性があることが判明しました。一方で、先行入力は会話にも適用されることから、スリップ中に会話を行うことで会話に必要な停止時間を削減できることが明らかになりました。今後はスピードラン中の各会話についてキー操作の最適化を行い、無停止会話を実践していきます。




付録


動画S1 動画1のスロー再生

動画S2 動画2のスロー再生





参考文献


[1] 洗足オンラインスクール. (2017). 聴音RPG【失われた音問村】. JavaScript版.


聴音RPGのRTAにおけるクリアタイム予測法の検討

  1. 緒言 聴音RPG【失われた音問村】 [1] のRTAでは、ゲームの進行に必要なアイテムを購入するためにお金稼ぎを行う必要があります。聴音RPGにおいて、お金(通貨単位:ゴールド)は基本的に敵モンスターである音霊を倒すことによってのみ手に入れることができます。したがって、...