2021年5月3日月曜日

聴音RPGにおける先行入力を利用した無停止会話



1. 緒言


聴音RPG【失われた音問村】[1](以下、聴音RPG)の移動の特徴として、筆者は既報にて先行入力の蓄積を報告しました。また、これを利用してエンカウント後スリップを意図的に発生させるための走法、ヴィブラート走法及びトレモロ走法を提案しました[2]

エンカウント後スリップにより実質的な総移動歩数の短縮及びエンカウント数の削減が期待されますが、実際にエンカウント数が削減されるか、あるいは不変なのかは不明です。本報告では、エンカウント後スリップの原理について考察を深めるため、先行入力の蓄積という現象そのものについての詳細な検討を行いました。

筆者はまず、先行入力によってマップのどの地点の情報が得られているか、すなわち、読み込まれている情報が主人公がその時点で存在する位置の情報か、それとも先行入力反映後の情報か、という検証を行いました。続いて、移動以外の先行入力が蓄積されるか検討するため、先行入力によるキャラクターとの会話を試みました。



2. 方法


2.1. マップ情報読み込み


音問村入村許可証を得ずに音問村への橋を渡るとき、右端に到達してさらにカーソルキーを右に押すと図1のとおりのメッセージが発生します。本検討においては図2に示した地点Aから地点Bまでを移動し、図1のメッセージを出すまでのキー操作を先行入力しました。必要となるキー操作は右矢印キー13回(移動12マスとメッセージ出現)となります。
 
 
図1 音問村の入村許可証を所持していないときに表示されるメッセージ



図2 マップ情報読み込みの検討時の移動地点



2.2. 先行入力による会話


先行入力による会話の可能性を検討するため、図3に示した地点Cから地点Dまで移動し、直上のマスのキャラクターと会話するまでのキー操作を先行入力にて行いました。必要となるキー操作は上矢印キー5回、右矢印キー10回、上矢印キー1回、スペースキー4回です。
 
 
図3 先行入力による会話の検討時の移動地点



3. 結果


3.1. マップ情報読み込みの検証


動画1に非エンカウント時の挙動を、動画2に橋の右端でエンカウントした際の挙動を示しました。エンカウントしていないとき、キー操作を終えた時点でメッセージが表示されました。同様に、エンカウント時にはキー操作終了時点でエフェクトが発生されましたが、13回の右矢印キーを入力してもメッセージは発生しませんでした。


動画1 非エンカウント時のマップ情報読み込みの挙動


動画2 エンカウント時のマップ情報読み込みの挙動


3.2. 先行入力による会話


動画3に先行入力による会話の実施例を示しました。地点Dに到達する前に主人公が上を向き、会話メッセージが発生しているのが分かります。先行入力によりキャラクターの前で停止することなく会話することが可能でした。


動画3 先行入力を利用した無停止会話



4. 考察


マップ情報の読み込みの結果から、聴音RPGでは主人公の描画上の位置でなく先行入力反映後の位置の情報を読み込んでいると推測されます。動画1においては地点Bに到達する前に入村許可証に関するメッセージが表示されています。動画2では先行入力反映後の位置が地点Bに到達した時点でエンカウントしたため、入力直後にエンカウントのエフェクトが発生したもののメッセージは表示されなかった(13回目の右矢印キーが反映されなかった)と考えられます。

これらの推測が正しいものとすると、エンカウント後スリップという名称は正確でなく、実際にはスリップ後の位置でエンカウントしていたものが、先行入力によって移動中にエンカウントの情報を取得したためにスリップしているように見えるだけである可能性があります。このことから、エンカウント後スリップによるエンカウント数削減効果は期待できないことが示唆されました。

一方で、動画3に示したとおり、先行入力は移動のみならず会話にも適用可能であることが分かりました。会話の先行入力をスリップ中に行う都合上、移動の先行入力についても十分に行う必要があり、事前にトレモロ走法による長距離の移動が要求されます。その際にエンカウントが生じると先行入力が解消されるため、スピードランにおいては基本的に煉瓦村や建物内のような非エンカウント地帯での適用を優先すべきです。このテクニックにより会話のための一時停止が不要となり、1回の会話あたり1秒弱、全体として10-20秒の短縮に繋がることが予想されます。




5. 結語


先行入力の性質に関する詳細検討により、先行入力反映後の位置情報が即時に取得されていることが示唆されました。これにより、エンカウント後スリップという名称は正確でなく、スリップによるエンカウント数削減は期待できない可能性があることが判明しました。一方で、先行入力は会話にも適用されることから、スリップ中に会話を行うことで会話に必要な停止時間を削減できることが明らかになりました。今後はスピードラン中の各会話についてキー操作の最適化を行い、無停止会話を実践していきます。




付録


動画S1 動画1のスロー再生

動画S2 動画2のスロー再生





参考文献


[1] 洗足オンラインスクール. (2017). 聴音RPG【失われた音問村】. JavaScript版.


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