2021年4月22日木曜日

聴音RPGにおけるエンカウント後スリップの新規走法による再現

 

 1. 緒言

聴音RPG【失われた音問村】[1](以下、聴音RPG)における特徴として、高いエンカウント率が挙げられます。本作品は音感の向上を目的としているため、音霊(おんりょう、本ゲームにおける敵モンスターの呼称)に頻繁にエンカウントすることはその目的に合致したものと言えます。しかしながら、スピードランにおいてはエンカウントの回数によりクリアタイムが大きく左右されるため、基本的には戦闘回数をより少なくすることが重要です。

動画1に、音霊とエンカウントした際のゲームの動きを例示しています。エンカウント時には画面が白く点滅し、背景音楽が消失するという演出がなされています。一方、筆者はスピードラン中に、この演出が入ったあとも操作キャラクターが停止せず、数マス滑るという現象に遭遇しました。

 

動画1 通常のエンカウント時の挙動


そしてこの度、上記のエンカウント後のスリップ現象を意図的に発生させる走法を二つ特定しました。これにより移動距離の短縮、ひいてはスピードラン中の合計エンカウント数の削減に繋がることが期待されます。特定された二つの走法をそれぞれ「ヴィブラート(Vibrato)走法」、「トレモロ(Tremolo)走法」と名付け、本稿ではこれらの新規走法に関する詳細説明と考察を行います。


2. 新規走法

 

2.1. ヴィブラート走法

ヴィブラート走法は、2方向のキーを素早く交互に押すことによって斜め方向にエンカウント後スリップを生じさせる方法です。キーを押す速度は可能な限り速いほうが望ましいものの、同時に複数の方向キーを入力してしまうと方向転換を受け付けなくなる[2]ことから、それぞれのキーを押して離したことが体感できる程度の速さに留めておくのが良いようです。

動画2に示したとおり、移動中及びスリップ中の動きが2方向に揺れているように見えることから、伸ばした音の高さを揺らす演奏技法であるヴィブラート(Vibrato)より命名しました。素早い入力の結果、実際の移動よりも速く方向転換が生じていることが分かります。


動画2 ヴィブラート走法とエンカウント後スリップ


2.2. トレモロ走法

ヴィブラート走法が2つのキーを用いるのに対し、トレモロ走法では1つのキーを連打することでスリップを生じさせます。連打できているということは当然キーを押して離すことを繰り返しているわけですので、少なくとも人間に可能な範囲では速ければ速いほど効果が期待できるように思います。

トレモロ走法時の挙動を動画3に示しました。動画1と操作キャラクターの足元を比較したとき、明らかに動きが速くなっていることが分かります。なお、走法名は同じ高さの音を繰り返し演奏する技法であるトレモロ(Tremolo)より命名しました。


動画3 トレモロ走法とエンカウント後スリップ


3. 考察

 

3.1. 発生原理

筆者は以前、方向転換の際に2方向のキーが同時に押されている場合、0.4秒程度の停止時間が生じることを報告しました。同時にその対策として、移動中に一旦キーを離してから次の方向キーを入力し、滑らかに方向転換を行うノンレガート走法を提唱しました[2]

聴音RPGでは通常の移動でも1マスのスリップが発生しており、ノンレガート走法はこのスリップ中の先行入力を利用しています。この先行入力が蓄積するらしく、ノンレガート走法を高速化してスリップ距離を伸ばしたものがヴィブラート走法、さらに使用キー数を1個に減らしたものがトレモロ走法であると言えるかと思います。これらはあくまで推測であり、実際の原理は依然として不明です。


3.2. 実用化にあたっての検討事項

ヴィブラート走法及びトレモロ走法を実用化する際には、下記の検討が必要になります。

第一に、各走法そのものに対する検討です。動画で見る限りでは問題なさそうですが、各走法を使用中、通常の移動と比較して速度が低下することがないか計測しなければなりません。また、スリップのエンカウント率に対する影響の有無も調査すべきです。例えば、エンカウントした瞬間に次のエンカウントまでの歩数が決定し、スリップによってその歩数が消費されてしまう場合はスリップを発生させる意義がありません。

第二に、スピードラン中の新規走法の使用方法についても検討が必要です。そもそも聴音RPGのスピードランでは必須アイテムの購入にゲーム内通貨(ゴールド)が必要で、ほとんどの場合は音霊との戦闘によって手に入るものです。さらに、スピードラン用のルートでは取得ゴールドの合計が必須アイテム購入に満たないこともあります。1時間のスピードランのうち、必須アイテムを全て購入するまでの45分程度はエンカウント数の削減にリスクが伴うことから、実質的には終盤まで新規走法の使用が制限されます。したがって、これらの走法による時間短縮は最大でエンカウント2-3回分程度となる見込みです。

使用タイミングだけでなく、2走法の使い分けも重要な検討要素です。スリップ時の挙動のコントロール方法について詳細が判明しておらず、また、キーを交互に押したり連打したりする行為はいずれもそれなりの筋力を使うので、これに関しては一般化されるものでなく走者各人が体得すべきものと言えます。



4. 結語

以上、聴音RPGにてエンカウント後スリップを発生させるための新規走法について紹介しました。今後これらの走法の詳細を検討し、聴音RPGスピードランの時間短縮に繋げたいと思います。




参考資料

 
[1] 洗足オンラインスクール. (2017) 聴音RPG【失われた音問村】.  JavaScript版.

[2] まっつ. (2021) 第13回RTA BootCamp:聴音 RPG 【失われた音問村】.  RTA BootCamp, 第13回; 0:09:28 - 0:11:15.

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