2. タノン系とインターバルーン系の攻略
2.1. インターバルーン系と他の系統の音霊との関係
聴音RPGでは最初に音高聴取の音霊であるホワイト・タノンに出くわす場合が多いのですが、本稿ではその攻略法については詳述せず、音程聴取の音霊であるインターバルーン系の攻略法を記載することでその代替とします。なぜならば、絶対音感保持者にとってタノン系は(絶対音感の定義なので)対策の必要が無く、非保持者にとってはインターバルーン系より困難だからです。
図2-1に相対音感でタノン系と戦う際の思考の過程を示しています。この図のとおり、相対音感では音程から音高を判断するため、タノン系はインターバルーン系の発展と見なせるように思います。もしも絶対音感なしでタノン系が倒せるのであれば、音程の感覚と用語(長二度、短三度など)を対応させるだけでインターバルーンにも対処可能です。
図2-1 相対音感による音高判定の過程
インターバルーン系の音霊との戦闘で鳴らされる音は2音ですので、絶対音感保持者はちょうど非保持者と逆の過程により、時間内にその2音を聴取して音程を導くことができれば問題ありません。ただし解答時間が5秒程度しかなく、音高と音程の対応がしっかりできていないと解答は困難ですので、その場合は後述の直接音程を判定する方法を参照すると楽かもしれません。また、和音聴取の音霊であるワオーン系のため、短二度、増四度、長七度については直感で判断できるようにしておくことをお勧めします。
2.2. ナロー・インターバルーン
図2-2 ナロー・インターバルーン[1]
ナロー・インターバルーンの5つの選択肢について、二度は不協和音程、三度は不完全協和音程、完全四度は完全協和音程です。また、短二度は長二度と比較してより不協和度が高く聞こえ、同じ不完全協和音程でも短三度は暗く、長三度は明るく聞こえます。すなわち、ナロー・インターバルーンの範囲では選択肢の一番上の短二度が最も濁っており、下に行くにつれて澄んだ音になっていきます。
2.2.1. 二度
長二度と比較し、短二度は極めて強い不協和感をもたらします。最も協和感のある完全一度(全く同じ2音)から2音の間隔がさほど開いていないため、完全一度に向かおうとする力が強いのだと思います。また、短二度では2音の周波数の差が小さく、低い音域ではうなりを伴う一つの音として認識されることもあります。
ワオーン系の説明をする際にも触れますが、古典的な文脈で短二度が現れる機会は長二度と比較して少ないため、クラシック音楽に慣れた耳では特に異様に聞こえます。近年では短二度も頻繁に使用されるようになりましたので、この感覚は音楽的なバックグラウンドによって異なるかもしれません。
2.2.2. 三度
三度の長短については二度の長短ほど差が大きくなく、判別が困難です。先ほど短三度は暗く、長三度は明るく聞こえると述べましたが、これは図2-3のようにそれぞれ短三和音と長三和音の第五音が省略された形として認識されるためかと思います。
図2-3 三度音程と三和音の関係
ただし、聴音RPGでは通常3回連続で聴取する必要があるため、響きの明暗で判別する際には連続する音による調的な錯覚に注意が必要です。図2-4はその例ですが、3つの音を連続して聞いた際にハ長調の終止形のように聞こえるため、最後のミとソが明るく聞こえてしまいます。それぞれの音について、調性的文脈から切り離し、独立した音として聴取することが重要です。
図2-4 音程聴取における調的な錯覚
インターバルーンに限らないのですが、音霊は非常に広い音域から音を出してきます。特に低い音域ですと、いずれの音程もより濁って聞こえてくるものです[2]。様々な音域について各音程の響きの感覚をつかむことはインターバルーン系だけでなく、ワオーン系の攻略でも重要になってきます。
2.3. インターバルーン
図2-5 インターバルーン[1]
名前から「ナロー」が取れたインターバルーンは選択肢が1オクターブ(完全八度)まで広がっていますが、実は図2-6に示すとおり、増四度を軸として対称になっています。すなわち、完全五度は完全協和音程、六度は不完全協和音程、七度は不協和音程ですので、2つの音の間隔を聴取して狭ければ二度から四度、広ければ五度から七度より協和度に応じて選択すればよいということになります。
図2-6 音程間の関連
2.3.1. 増四度と完全五度
対称とはいえ四度と五度は2音の間隔の差が少なく、同じ完全協和音程ですので判断が難しいかもしれません。完全五度のほうが協和性が高いとされており[2]、時として融合して一つの音のように聞こえることがあります。増四度は不協和音程であり、これら協和性の高い音程に挟まれているためか不安定な響きを持っています。
2.3.2. 六度
六度の長短の判別は筆者が最も苦手としているところです。長三度と対称になっているのは短六度であり、そちらのほうが明るく感じられるような気もするのですが、協和性については長六度のほうが高いとされています[2]。ひょっとすると絶対音感非保持者のほうが音高に惑わされないため有利なのかもしれません。
以下に判別方法の例を挙げます(筆者は音を足す方法を採用しています)。なお、これらの判別方法は他の音程でも応用が利くので、苦手な音程について自分なりの判別方法を見つけてください。
・頭の中で音を動かしてみる:高いほうの音を半音下げ、完全五度になったら短六度
・頭の中で音を足してみる:低いほうの音の完全五度下の音を足し、長三和音になったら長六度、短三和音になったら短六度(図2-7)
図2-7 六度音程と三和音の関係
2.3.3. 七度
短七度と長七度の協和性についてはさほど差が無いのですが、完全八度(1オクターブ)との差が少ないからか長七度のほうがより不協和度が高く聞こえます。短二度と対称になっている長七度はやはり古典的な文脈での使用頻度が短七度より低く、クラシック音楽に慣れた耳では強い違和感を覚えます。
これらの聴体験は人により異なることもあり、自分なりに言語化することが重要です。本稿については、協和性に関してはなるべくreview論文[2]を参考にし、主観的な部分については「~と思います」「~かもしれません」等不確実性を示す記載をしています。自らの感覚についてより理論的な裏付けが欲しい場合は該当する文献を参照してください。
2.4. ワイド・インターバルーンとボス戦
ワイド・インターバルーンとボス戦では、複音程(1オクターブとn度)の聴取をする必要があります。通常のインターバルーンと難度の点で大きな差はありませんが、二度(九度)を構成する2音の間隔が七度に近づくため、2音の上下をしっかりと確認する必要があります。
一方、長短三度の判別と完全四度・完全五度の判別は容易になります。2音の間隔が開くことにより、融合度(二つの音が一つの音として聞こえる度合)は低下するものですが、長三度や完全五度は融合度が損なわれにくく、他方との差が大きくなるためかと思います。この現象についてより深く理解するためには、参考文献および倍音に関する資料を参照してください。
ボス戦では選択肢が増・減・重増・重減音程のみになっています。混乱を誘いますが、戦闘を重ねるうちに規則性が見えてきますので、諦めずに挑戦してください。規則性に頼らず実力で突破する場合、長・短・完全音程での聴取後に増・減・重増・重減音程に変換して選択肢を絞り込む、という過程を5秒以内に行う必要があるため、各音程の相関(重増四度=完全五度=減六度など)を暗記しなければなりません。
2.5. タノン系(相対音感用)
第二部冒頭で述べたとおり、絶対音感非保持者がタノン系と戦うためには基準となる音が必要になります。洗足オンラインスクールの攻略ページや、ゲーム内でも鍵盤楽器の併用が推奨されています[3]ので、適宜音を鳴らしながら対処していきましょう。基準となる音との音程関係が把握できていないとすぐに音名が出てこないため、慣れないうちは基準となる音を固定しておくとよいかもしれません。
鍵盤楽器の併用のため、各音霊は戦闘開始前にFIGHTボタンを押す仕様になっています。ただし、戦闘開始後は次々に音が鳴りますので、正解不正解を問わず回答後に基準となる音を鳴らしておく癖を付けておくと良いでしょう。また、慣れてきたらゲーム内の音を基準にタノンの音を聴取するようにすれば、絶対音感保持者と同等の速さで対処できるようになるかと思います。参考までに、フィールドの音楽はホ長調、音問村の音楽はハ短調(内部転調が多いですが)、正解したときのSEはラ-ファです。タノンが出した音を基準に次の音を聴取することもできますが、間違えても正解は表示されないので間違い続けてしまう可能性があります。
以上、インターバルーン系とタノン系の攻略法について述べました。第三部ではワオーン系(和音聴取)の攻略法を説明していきます。第二部の内容が前提になりますので、第三部に進む前にタノン系、インターバルーン系についてはそれなりに対処できるようになっていることをお勧めします。また、相対音感の獲得に関する大人向けの文献はほとんど有りませんので、こういうところが難しい、というご質問やご意見は非常に貴重です。なにかありましたらTwitter、Twitch、Discord等にて筆者にご連絡ください。
参考文献
他に日本語で読める文献として下記のpp. 327-333を挙げますが、1968年初版の著作を編集したものであるため、記載された研究結果に関する現在の知見については調査が必要かもしれません。私も必要に応じて検討したいと思います。
伊福部昭 (2008). 完本 管絃楽法. 音楽之友社.