2021年5月9日日曜日

和声の祭典と地球の旋律線でRTAを行う際のルール案

 

 

1. はじめに


先日行われた『ベストオブ謎RTA選手権』[1]にて、四分休符の踊り食いは喉に刺さりやすいので注意 氏(以下、しぶぐい氏)が『和声の祭典』を走り見事ベストオブ謎RTA(ニコニコ動画側)を勝ち取りました。投票してくださった皆様、理解った方も理解らなかった方もありがとうございました。また、運営の皆様方も、理解らないのが前提という企画コンセプトに甘えて放り投げた(と、しぶぐい氏が語っていました)動画と走者コメントを見事に捌いていただき大変感謝しております。しぶぐい氏に代わりまして御礼申し上げます。

ご存じのとおりしぶぐい氏はなかなか表に出てこない方ですので、筆者がこのRTAの解説記事を書くようにしぶぐい氏より依頼を受けました。そこで、今回は筆者が日常的にRTAを行っている『和声の祭典』[2]と『地球の旋律線』[3]について、概要とルール案を説明させていただきます。なお、これらのRTAは後述の理由でSpeedrun.com等にページを作成する予定はありませんので、あくまでルール「案」となります。



2. 各システムの概要


『和声の祭典』及び『地球の旋律線』は、いずれも洗足オンラインスクールにより開発された、音楽理論の自動採点システムです。前者は和声学、後者は対位法の課題を解くもので、複数の旋律を美しく調和させる技法が対位法であり[4]、それにより生じた縦の音の響き(和音)とその進行(和声)を探求する学問が和声学となります[5]

各システムの解答は一定の規則に基づき採点されます。なお、これらの規則については統一された見解があるものでなく、例えば『和声の祭典』では採用している教材のうちより自由度の高い基準を用いており[6]、『地球の旋律線』での採用教材の一つである『パリ音楽院の方式による厳格対位法』では対位法の各教材における基準の比較と考察がなされています[7]。また、これらの基準を適用してなお、各システムの課題にはある程度の自由が残されており、同程度の点数の解答であっても解答者によって内容は異なります。しぶぐい氏がベストオブ謎RTA選手権にて「並走に適した」と評しているのはこのためです。

『和声の祭典』は100点満点の減点方式、『地球の旋律線』は「良い旋律の時に30000点を超えるような感じ」[8]で採点されています。その仕様から、筆者としぶぐい氏は現在『和声の祭典』について「和声学課題集II 全6部100点」、『地球の旋律線』について「全4類 上下声 30万点」のカテゴリでRTAを行っています。以下にそれらのルール案をお示しします。



3. ルール案


3.1. 和声の祭典(和声学課題集II 全6部100点)


A. 『和声の祭典』の和声学課題集 IIについて、「第1部 II7の和音」から「第6部 付録」までの各部より1課題ずつ選択する
- 和声学課題集 Iはより平易な内容になっていますので、初めての方にお勧めです

A-1. 課題の選択はランダムとする
  •  筆者はかなり雑な課題選択システムをExcelで作成しています。必要でしたらお声がけください

A-2-1. 課題の選択はタイマースタート前1分以内に行う

A-2-2. 各課題へのリンクはタイマースタート後に開く

B. 各課題について、100点になるまで解答と修正を繰り返す
  • 見直しをして一発100点を狙うよりもコンピュータにチェックしてもらったほうが速くなります。何回もRTAを行っていると最初の解答でより高い点数が取れるようになっていきます

C. 100点を取得したら次の課題へ進む
  • 課題の順番自体は指定しませんが、固定しておくとスプリットタイムの管理が楽かと思います

C-1. 全6部で100点を取得した時点でタイマーストップとする


3.2. 地球の旋律線(全4類 上下声 30万点)


A. 『地球の旋律線』の和声学課題集 IIについて、「第1類(全音符)」から「第4類(二分音符 移勢)」までの各類と上下声の計八つの組み合わせで1課題ずつ選択する

A-1-1. 洗足オンラインスクールの定旋律を使用する

A-1-2. 旋法は自由とする

A-1-3. 1から14までの定旋律より選択する
  • 15から20までの定旋律は、対位法課題に用いられる旋律としてあまりにも逸脱しているため除外します

A-2. 課題の選択はランダムとする

A-3-1. 課題の選択はタイマースタート前1分以内に行う
  •  『地球の旋律線』に関しては選択内容が豊富なので、1分間でできる限り準備しておく必要があります

A-3-2. 各課題へのリンクはタイマースタート後に開く

B. 各課題について、合計得点が30万点になるまで解答と修正を繰り返す
  • 初めての方は25万点を目標に行うのが適切かと思います。上級者は35万点を目指すのも良いかと思いますが、選択された問題によっては達成不能となる可能性があります

C. 別の課題を解答したあと、先に解答した課題に戻って解答しても良い

C-1. 合計得点が30万点に達した時点でタイマーストップとする
  • こちらについても雑な課題選択・得点計算システムをExcelで作成しています。必要でしたらお声がけください


3.3. オプションのルール


下記は各個人の学習目的に応じて適用の有無を選択可能です。タイムに影響を与えるものもあるため、場合によっては別カテゴリの扱いになるかもしれません。

X-1-1. 各システムの音声機能(再生、クリック時に和音を鳴らす、など)を使用しない

X-1-2. 外部の音声(楽器など)による確認を行わない
  • 各システムの音声、外部の音声共に筆者は使用していません。基本的に使用しないほうが速いですが、『和声の祭典』でシャープやフラットの多い調が出てきたときは欲しくなります

X-2.(和声の祭典のみ)100点取得後、次の課題のリンクを開く前にタイマーを停止させることができる
  • 配信映え用です。タイマーを止めて100点の解答を再生したりしています

X-3. 初回で一定の点数を取得できなかった場合は課題を選択しなおす
  • 現時点では採用していません。筆者の技量だと『和声の祭典』は70-80点、『地球の旋律線』は1.5-2万点あたりにすると程よい手ごたえになりそうです。「初回で」の条件を外すと泥沼になる予感がします



4. 実施例


動画1に『和声の祭典』の、動画2に『地球の旋律線』の実施例を示します。なお、動画1についてはしぶぐい氏よりベストオブ謎RTA選手権応募時の動画をお借りしました。


動画1 『和声の祭典』RTA実施例


動画2 『地球の旋律線』RTA実施例



5. おわりに


以上、『和声の祭典』及び『地球の旋律線』の概要とルール案について説明いたしました。ここで提示したルールに基づくと、全ての課題について解答を事前に用意しておくか、解答を暗記した課題が出るまで選択を繰り返すかすればベストタイムを出せることはRTA走者であれば容易に想像できるかと思います。あくまで対位法及び和声学の練習を目的としているため、筆者やしぶぐい氏は現時点でSpeedrun.comへの申請等は行っておりません。

しぶぐい氏も言及していましたが、このRTAが映えるのは並走です。同じ課題に対して目標となる点数を取るまでの時間を競うスピードランフェイズと各々の解答の美しさを語り合う感想戦フェイズで二度おいしい並走となるはずです。残念ながらしぶぐい氏は筆者との共演がNGとのことですので、今回のしぶぐい氏のベストオブ謎RTA受賞、そして筆者のこの記事を通じて走者が増えることを願っています。





参考文献

 




[2] 洗足オンラインスクール. 和声の祭典.


[3] 洗足オンラインスクール. 地球の旋律線.


[4] 洗足オンラインスクール (2020). 地球の旋律線 News Release.


[5] 島岡譲 他 (1998). 総合和声 実技・理論・分析. 音楽之友社.


[6] 洗足オンラインスクール. 和声学 学修支援システムについて.


[7] 山口博史 (2013). パリ音楽院の方式による厳格対位法. 第2版, 音楽之友社.


[8] 洗足オンラインスクール. 地球の旋律線 システムについて.

2021年5月3日月曜日

聴音RPGにおける先行入力を利用した無停止会話



1. 緒言


聴音RPG【失われた音問村】[1](以下、聴音RPG)の移動の特徴として、筆者は既報にて先行入力の蓄積を報告しました。また、これを利用してエンカウント後スリップを意図的に発生させるための走法、ヴィブラート走法及びトレモロ走法を提案しました[2]

エンカウント後スリップにより実質的な総移動歩数の短縮及びエンカウント数の削減が期待されますが、実際にエンカウント数が削減されるか、あるいは不変なのかは不明です。本報告では、エンカウント後スリップの原理について考察を深めるため、先行入力の蓄積という現象そのものについての詳細な検討を行いました。

筆者はまず、先行入力によってマップのどの地点の情報が得られているか、すなわち、読み込まれている情報が主人公がその時点で存在する位置の情報か、それとも先行入力反映後の情報か、という検証を行いました。続いて、移動以外の先行入力が蓄積されるか検討するため、先行入力によるキャラクターとの会話を試みました。



2. 方法


2.1. マップ情報読み込み


音問村入村許可証を得ずに音問村への橋を渡るとき、右端に到達してさらにカーソルキーを右に押すと図1のとおりのメッセージが発生します。本検討においては図2に示した地点Aから地点Bまでを移動し、図1のメッセージを出すまでのキー操作を先行入力しました。必要となるキー操作は右矢印キー13回(移動12マスとメッセージ出現)となります。
 
 
図1 音問村の入村許可証を所持していないときに表示されるメッセージ



図2 マップ情報読み込みの検討時の移動地点



2.2. 先行入力による会話


先行入力による会話の可能性を検討するため、図3に示した地点Cから地点Dまで移動し、直上のマスのキャラクターと会話するまでのキー操作を先行入力にて行いました。必要となるキー操作は上矢印キー5回、右矢印キー10回、上矢印キー1回、スペースキー4回です。
 
 
図3 先行入力による会話の検討時の移動地点



3. 結果


3.1. マップ情報読み込みの検証


動画1に非エンカウント時の挙動を、動画2に橋の右端でエンカウントした際の挙動を示しました。エンカウントしていないとき、キー操作を終えた時点でメッセージが表示されました。同様に、エンカウント時にはキー操作終了時点でエフェクトが発生されましたが、13回の右矢印キーを入力してもメッセージは発生しませんでした。


動画1 非エンカウント時のマップ情報読み込みの挙動


動画2 エンカウント時のマップ情報読み込みの挙動


3.2. 先行入力による会話


動画3に先行入力による会話の実施例を示しました。地点Dに到達する前に主人公が上を向き、会話メッセージが発生しているのが分かります。先行入力によりキャラクターの前で停止することなく会話することが可能でした。


動画3 先行入力を利用した無停止会話



4. 考察


マップ情報の読み込みの結果から、聴音RPGでは主人公の描画上の位置でなく先行入力反映後の位置の情報を読み込んでいると推測されます。動画1においては地点Bに到達する前に入村許可証に関するメッセージが表示されています。動画2では先行入力反映後の位置が地点Bに到達した時点でエンカウントしたため、入力直後にエンカウントのエフェクトが発生したもののメッセージは表示されなかった(13回目の右矢印キーが反映されなかった)と考えられます。

これらの推測が正しいものとすると、エンカウント後スリップという名称は正確でなく、実際にはスリップ後の位置でエンカウントしていたものが、先行入力によって移動中にエンカウントの情報を取得したためにスリップしているように見えるだけである可能性があります。このことから、エンカウント後スリップによるエンカウント数削減効果は期待できないことが示唆されました。

一方で、動画3に示したとおり、先行入力は移動のみならず会話にも適用可能であることが分かりました。会話の先行入力をスリップ中に行う都合上、移動の先行入力についても十分に行う必要があり、事前にトレモロ走法による長距離の移動が要求されます。その際にエンカウントが生じると先行入力が解消されるため、スピードランにおいては基本的に煉瓦村や建物内のような非エンカウント地帯での適用を優先すべきです。このテクニックにより会話のための一時停止が不要となり、1回の会話あたり1秒弱、全体として10-20秒の短縮に繋がることが予想されます。




5. 結語


先行入力の性質に関する詳細検討により、先行入力反映後の位置情報が即時に取得されていることが示唆されました。これにより、エンカウント後スリップという名称は正確でなく、スリップによるエンカウント数削減は期待できない可能性があることが判明しました。一方で、先行入力は会話にも適用されることから、スリップ中に会話を行うことで会話に必要な停止時間を削減できることが明らかになりました。今後はスピードラン中の各会話についてキー操作の最適化を行い、無停止会話を実践していきます。




付録


動画S1 動画1のスロー再生

動画S2 動画2のスロー再生





参考文献


[1] 洗足オンラインスクール. (2017). 聴音RPG【失われた音問村】. JavaScript版.


2021年4月30日金曜日

聴音RPG攻略の手引き 第一部

 

1. はじめに


これから複数記事にわたって、聴音RPG【失われた音問村】(以下、聴音RPG)[1]の攻略方法について説明していきます。攻略ルートそのものについては筆者の解説によるスピードラン動画[2]をご覧いただくこととして、これらの記事では聴音RPGの攻略に必要な音感の習得方法と各モンスター(聴音RPGの世界観に従い、以下「音霊」と呼称します)との戦い方を記載します。



1.1. 聴音RPG攻略に必要なもの


大雑把に言って、聴音RPGの攻略には次の二つが必要になります。もちろん聴音RPG自体がこれらを身に付けるためのゲームですので、プレイ前に用意しておく必要はありません。

・ごく基本的な楽典の知識
・絶対音感または相対音感


1.1.1. 楽典


楽典とは、楽譜の読み書きに必要な約束事です[3]。音楽ジャンルによってところどころ用語が異なる部分はあるものの、いわゆる音楽理論に進む前の共通言語にもなりますので、学んでおくと何かと便利です。筆者がTwitchでの作曲配信中に何か独り言を言っているかと思いますが、その言葉の意味が分かるという効能もあります。聴音RPGでは選択肢に音程(短二度、増四度など)や和音の種類(長三和音、導七和音)が出てきますので、楽典の知識が無ければ聞こえてきた音どころか選択肢すら分からないという状況に陥ります。洗足オンラインスクールには楽典の解説もあります[4]し、この攻略記事は楽典の知識を前提としていますので、用語が分からなくなったときには該当ページを参照することをお勧めします。


1.1.2. 絶対音感と相対音感


絶対音感は、ある一つの音の高さを、他の基準となる音なしに特定する能力です[5]。筆者が所持しているのはこちらで、3歳でピアノを習い始めた時から、毎週のレッスンの終わりに音感のトレーニングをさせられたのを覚えています。一方で、ある基準となる音があったとき、別の音との関係を音楽的な文脈から把握し、それによってその音の高さを捉える能力が相対音感です[5]。音楽とは1音のみより成るものではなく、それゆえに相対音感を所持していれば実際上問題ないものと思います。

聴音RPGは絶対音感、相対音感いずれを用いても攻略できるように設計されていますので、この記事はそれぞれの場合を想定して攻略法を記載します。なお、絶対音感は幼少期の限られた期間にしか習得できないというのが通説です[6]。相対音感については聴音RPGや他の洗足オンラインスクールのコンテンツを通じて身に付けられるという想定ですが、私自身の経験に乏しいので保証はできないというのが正直なところです。また、書店を回って聴音に関する書籍を探しましたが、ほとんどが幼少期の絶対音感の形成に関するものか、音楽大学入試向けの高度なものであり、大人の初心者向けの資料は見つけられませんでした。



1.2. 聴音RPGの位置づけ


音楽大学入試の聴音では、一つ又は同時に演奏される複数の旋律や一連の和声の流れを聞き取ります[7][8]。聴音RPGはこれらの入試課題から単一の要素を抜き出したものであり、それゆえに入試聴音とは別種の難しさがあります。聴音RPGでは音霊が音を出してから数秒間の解答時間がありますが、旋律聴音や和声聴音では聴取すべき音が音楽の時間軸に沿って流れていきます。一方で、その音楽的文脈の存在のため、音楽大学入試の聴音の場合はある程度次の音が予測できてしまうことがあります。

もちろん聴音RPGで培った音感が音楽大学入試や実際の音楽で行う聴音の補助となるのは確かなのですが、聴音RPG攻略のために音楽大学入試用の書籍を読むというのも本末転倒の感が否めません。各論では、洗足オンラインスクールのコンテンツを利用しつつ、聴音RPG攻略に直接役立つ情報を記載していきます。



1.3. 音を聴くことと音楽を聴くこと


そもそも聴音RPGのスピードランに固執すること自体が本末転倒ですので、聴音RPG攻略の各論に進む前に自戒の念を込めて記しておきます。音声1はとある作品の和音を一つだけ切り出してシンプルにしたものです。聴音RPGをクリアされた方なら属七和音を想起するでしょうし、絶対音感のある方なら譜例1のような和音を思い浮かべたでしょう。
 
 
 
音声1



譜例1 変イ音上の属七和音

 
 
しかしながら、それは厳密には正確ではありません。この和音はベートーヴェンの交響曲第五番第一楽章の20小節目からオクターヴ等の重複を削除したものであり、実際には譜例2のような記載となっています[9]。これはドイツの増六と呼ばれる和音で[脚注1]、属七和音と構成音の高さは同じですが和声上の扱いが異なります。


譜例2 変イ音上のドイツの増六和音

 
 
このように和音だけでなく、たとえ一つの音であったとしても、音楽の文脈の中で多様な働きを持つものです。聴音RPGをクリアされた暁には、是非スピードランによって基礎となる音感を維持、向上させつつ、日常に溢れる音楽を聴き取りながらそれぞれの音の意味に想いをはせていただければと思います。もちろん洗足オンラインスクールにはクラシック音楽の音楽理論を学ぶ方にも最適なコンテンツがありますので、いずれそれらについても紹介します。





脚注


[脚注1] 一般にイタリアの増六として紹介される例[10]ですが、ホルンのみながらドイツの増六を特徴づけるEsを鳴らしているためドイツの増六の例として紹介しました。楽器法上の制約もあるため、多義的に解釈されるべき箇所であると考えています。






参考文献


[1] 洗足オンラインスクール. (2017). 聴音RPG【失われた音問村】.  JavaScript版.

[2] まっつ. (2021). 第13回RTA BootCamp:聴音 RPG 【失われた音問村】. RTA BootCamp, 第13回.

[3] ヤマハ株式会社. 楽譜について学ぶ.

[4] 洗足オンラインスクール. 楽典 解説.




[8] 洗足オンラインスクール. オンライン聴音 810.

[9] Beethoven, L. V. Symphony No.5, Op.67. Breitkopf und Härtel.

[10] Hutchinson, R. (2017). Music Theory for the 21st-Century Classroom.

2021年4月22日木曜日

聴音RPGにおけるエンカウント後スリップの新規走法による再現

 

 1. 緒言

聴音RPG【失われた音問村】[1](以下、聴音RPG)における特徴として、高いエンカウント率が挙げられます。本作品は音感の向上を目的としているため、音霊(おんりょう、本ゲームにおける敵モンスターの呼称)に頻繁にエンカウントすることはその目的に合致したものと言えます。しかしながら、スピードランにおいてはエンカウントの回数によりクリアタイムが大きく左右されるため、基本的には戦闘回数をより少なくすることが重要です。

動画1に、音霊とエンカウントした際のゲームの動きを例示しています。エンカウント時には画面が白く点滅し、背景音楽が消失するという演出がなされています。一方、筆者はスピードラン中に、この演出が入ったあとも操作キャラクターが停止せず、数マス滑るという現象に遭遇しました。

 

動画1 通常のエンカウント時の挙動


そしてこの度、上記のエンカウント後のスリップ現象を意図的に発生させる走法を二つ特定しました。これにより移動距離の短縮、ひいてはスピードラン中の合計エンカウント数の削減に繋がることが期待されます。特定された二つの走法をそれぞれ「ヴィブラート(Vibrato)走法」、「トレモロ(Tremolo)走法」と名付け、本稿ではこれらの新規走法に関する詳細説明と考察を行います。


2. 新規走法

 

2.1. ヴィブラート走法

ヴィブラート走法は、2方向のキーを素早く交互に押すことによって斜め方向にエンカウント後スリップを生じさせる方法です。キーを押す速度は可能な限り速いほうが望ましいものの、同時に複数の方向キーを入力してしまうと方向転換を受け付けなくなる[2]ことから、それぞれのキーを押して離したことが体感できる程度の速さに留めておくのが良いようです。

動画2に示したとおり、移動中及びスリップ中の動きが2方向に揺れているように見えることから、伸ばした音の高さを揺らす演奏技法であるヴィブラート(Vibrato)より命名しました。素早い入力の結果、実際の移動よりも速く方向転換が生じていることが分かります。


動画2 ヴィブラート走法とエンカウント後スリップ


2.2. トレモロ走法

ヴィブラート走法が2つのキーを用いるのに対し、トレモロ走法では1つのキーを連打することでスリップを生じさせます。連打できているということは当然キーを押して離すことを繰り返しているわけですので、少なくとも人間に可能な範囲では速ければ速いほど効果が期待できるように思います。

トレモロ走法時の挙動を動画3に示しました。動画1と操作キャラクターの足元を比較したとき、明らかに動きが速くなっていることが分かります。なお、走法名は同じ高さの音を繰り返し演奏する技法であるトレモロ(Tremolo)より命名しました。


動画3 トレモロ走法とエンカウント後スリップ


3. 考察

 

3.1. 発生原理

筆者は以前、方向転換の際に2方向のキーが同時に押されている場合、0.4秒程度の停止時間が生じることを報告しました。同時にその対策として、移動中に一旦キーを離してから次の方向キーを入力し、滑らかに方向転換を行うノンレガート走法を提唱しました[2]

聴音RPGでは通常の移動でも1マスのスリップが発生しており、ノンレガート走法はこのスリップ中の先行入力を利用しています。この先行入力が蓄積するらしく、ノンレガート走法を高速化してスリップ距離を伸ばしたものがヴィブラート走法、さらに使用キー数を1個に減らしたものがトレモロ走法であると言えるかと思います。これらはあくまで推測であり、実際の原理は依然として不明です。


3.2. 実用化にあたっての検討事項

ヴィブラート走法及びトレモロ走法を実用化する際には、下記の検討が必要になります。

第一に、各走法そのものに対する検討です。動画で見る限りでは問題なさそうですが、各走法を使用中、通常の移動と比較して速度が低下することがないか計測しなければなりません。また、スリップのエンカウント率に対する影響の有無も調査すべきです。例えば、エンカウントした瞬間に次のエンカウントまでの歩数が決定し、スリップによってその歩数が消費されてしまう場合はスリップを発生させる意義がありません。

第二に、スピードラン中の新規走法の使用方法についても検討が必要です。そもそも聴音RPGのスピードランでは必須アイテムの購入にゲーム内通貨(ゴールド)が必要で、ほとんどの場合は音霊との戦闘によって手に入るものです。さらに、スピードラン用のルートでは取得ゴールドの合計が必須アイテム購入に満たないこともあります。1時間のスピードランのうち、必須アイテムを全て購入するまでの45分程度はエンカウント数の削減にリスクが伴うことから、実質的には終盤まで新規走法の使用が制限されます。したがって、これらの走法による時間短縮は最大でエンカウント2-3回分程度となる見込みです。

使用タイミングだけでなく、2走法の使い分けも重要な検討要素です。スリップ時の挙動のコントロール方法について詳細が判明しておらず、また、キーを交互に押したり連打したりする行為はいずれもそれなりの筋力を使うので、これに関しては一般化されるものでなく走者各人が体得すべきものと言えます。



4. 結語

以上、聴音RPGにてエンカウント後スリップを発生させるための新規走法について紹介しました。今後これらの走法の詳細を検討し、聴音RPGスピードランの時間短縮に繋げたいと思います。




参考資料

 
[1] 洗足オンラインスクール. (2017) 聴音RPG【失われた音問村】.  JavaScript版.

[2] まっつ. (2021) 第13回RTA BootCamp:聴音 RPG 【失われた音問村】.  RTA BootCamp, 第13回; 0:09:28 - 0:11:15.

2021年2月23日火曜日

第13回 RTA BootCamp『聴音RPG【失われた音問村】』台本(抜粋)

 
 
本記事をご覧いただきありがとうございます。本日、第13回 RTA BootCamp[1]に参加し、聴音RPG【失われた音問村】[2]のスピードランをさせていただきましたので、その台本のうち前説と後説を公開いたします。私のような作曲をメインとしている配信者がスピードランイベントに参加することは珍しいかと思いますので、そこに至る経緯と、作曲練習におけるスピードランについて説明させていただきました。何かのご参考になりましたら幸いです。
 
 
 

1. 前説

 
それでは、音問村学会より発表を始めさせていただきます。本ゲームについて余りにも喋りたいこと・喋らなければならないことが多く、RTA中の説明だけでは足りませんので、前説5分、RTA 1時間、後説5分というスケジュールで行きたいと思います。
 
 

ゲームの説明

 
聴音RPG【失われた音問村】は2010年に洗足学園音楽大学のオンラインコンテンツ、洗足オンラインスクールが開発したブラウザゲームです。音感の向上を目的としたゲームでして、見た目は昔ながらのRPGですが、戦闘が非常に特徴的です。敵の出した音の高さや音程、和音の種類、楽器名等を判別し、正解したらダメージを与えることができ、間違えればダメージを受けます。ストーリーについては、オープニングで字幕が流れますのでこれから朗読していきます。スクロールがやたら早いので早口で喋ります(あらすじを流す)。

All CDsというカテゴリですが、こちらはゲームの進行に必要なアイテムであるCD全てを集めるカテゴリです。詳細は追ってプレイ中に説明しますが、現在これらのCDの取得を1枚でもスキップする方法は見つかっていないため、実質Any%となっています。現在speedrun.comに存在するカテゴリはAll CDsのみ、走者は私のみです。いずれ走者が増えてくればゲームを壊してくれる人も出てくるのかな、という期待を込めてこちらのカテゴリ名にいたしました。
 
 

自己紹介

 
自己紹介も前説で済ませておきます。私はもともと作曲を行っている配信者で、去年までは他の方のRTA配信を拝見するだけでした。実はそれまでも作曲配信でタイムアタックらしきことはやっていて、洗足オンラインスクールには作曲の自動採点システムがあり、例えばその自動採点システムで7分以内に満点をとろう、というようなことをやっていました。

転機になったのは昨年末のRTA in Japanで、KORG Gadget for Nintendo Switchを用いて15分で作曲するというカウントダウン式RTA[3]を目にし、「私もRTAやってたんだ……!」というRTA走者としての自覚が急速に芽生えてしまいました。そこで、普段お世話になっている洗足オンラインスクールを世に広め、そのコンテンツで一緒に遊んでくださる方を増やすために本格的にRTA活動を始めました。それまでやっていた作曲自動採点システムのルールを明確化して走ることも考えましたが、色々と難しい部分がありましたので、耳のトレーニングを兼ねてこの聴音RPGを走ることといたしました。その後speedrun.comのページ作成と、Twitchでのゲームカテゴリ作成を行って今に至ります。

それでは長々と喋らせていただきましたが、聴音RPGを走らせていただきます。なお、本発表に際して洗足学園音楽大学様との利益相反関係はございませんが、公式Twitterに捕捉されてビビっております。
 



 

(スピードラン:聴音RPG【失われた音問村】)


以上、聴音RPGでした。ゲームとしても非常にしっかりしているため、是非遊んでいただければと思います。ここから後説に移らせていただきます。
 
 
 

2. 後説

 

洗足オンラインスクールのコンテンツ紹介

 
洗足オンラインスクールについてですが、聴音RPG以外にも様々なコンテンツが用意されています。例えばRPG要素なしに純粋にモンスターたちと戦いたい場合には、ワオーン・デスマッチ
[4]やネイローンの逆襲[5]といったゲームが用意されています。また、そもそも「増四度」だとか「長七和音」だとかの音楽用語の意味が分からない場合は、楽典解説をご覧いただければ楽譜の読み方から学ぶことができます[6]。自動採点による試験を受けることもできますので是非ご活用ください。
 
また、私がRTAを行っている他のコンテンツとして、和声の祭典[7]と地球の旋律線[8]があります。和声の祭典は和音を書く練習、地球の旋律線はメロディを書く練習です。解答を入力すると自動採点され、和声の祭典では100点満点を目指し、地球の旋律線ではハイスコアを競うことができます。
 
 

作曲練習スピードランの紹介

 
和声の祭典の一例をお見せします。青色の音符があらかじめ与えられており、このような感じのメロディとなっています(ピアノを弾く)。ごにょごにょとしていて本当にメロディかどうかわからないようなフレーズですが、上に3パート足すことでこのような和声進行となります(ブラウザで解答を鳴らす)。
 
 

 
私はこれらの課題をランダムに選択し、一定の点数を取るまでの時間を計測しています。しかしながら、課題ごとに難易度が大きく異なり、そもそも答えをあらかじめ用意しておけば早く終えられるので、ベストタイムを競う形にするのは本末転倒です。また、これらの課題のルールとなっている和声法や対位法は規則が厳格かつ難解であり、通常のRTAイベントでは解説が追い付かないという難点もあります。例えば得点表示の下にコメントがあるのですが、これを「対斜がありますけどドッペルドミナントの1転から属七和音の基本形への進行なのでセーフですね~」などと言っても伝わりませんし、一つずつ用語を説明していっても間に合いません。というわけで今回は聴音RPGを選択させていただきました。

ただ、同じ100点でも人によって答えが違ってくるので、たくさんの方と緩く並走なんかしたら楽しそうなんですよね。というわけでどなたか一緒に遊んでいただければ大変うれしく思います。
 

 
それでは、音問村学会からの発表を終わらせていただきます。RTA BootCampはまだまだ続きますので、引き続きご覧いただければと思います。

以上です。ご清聴いただきありがとうございました。さよなら~(ピアノの鍵盤の上で手を振る)
 
 
 
 

参考資料

 
[1] RTA BootCampの公式Twitter.(2021年2月23日閲覧)
 
[2] 洗足オンラインスクール.  聴音RPG【失われた音問村】.

[4] 洗足オンラインスクール. ワオーン・デスマッチ.

[5] 洗足オンラインスクール. ネイローンの逆襲.

[6] 洗足オンラインスクール. 音楽理論・楽典.

[7] 洗足オンラインスクール. 和声の祭典.

[8] 洗足オンラインスクール. 地球の旋律線.
 
 
 

聴音RPGのRTAにおけるクリアタイム予測法の検討

  1. 緒言 聴音RPG【失われた音問村】 [1] のRTAでは、ゲームの進行に必要なアイテムを購入するためにお金稼ぎを行う必要があります。聴音RPGにおいて、お金(通貨単位:ゴールド)は基本的に敵モンスターである音霊を倒すことによってのみ手に入れることができます。したがって、...