2021年5月9日日曜日

和声の祭典と地球の旋律線でRTAを行う際のルール案

 

 

1. はじめに


先日行われた『ベストオブ謎RTA選手権』[1]にて、四分休符の踊り食いは喉に刺さりやすいので注意 氏(以下、しぶぐい氏)が『和声の祭典』を走り見事ベストオブ謎RTA(ニコニコ動画側)を勝ち取りました。投票してくださった皆様、理解った方も理解らなかった方もありがとうございました。また、運営の皆様方も、理解らないのが前提という企画コンセプトに甘えて放り投げた(と、しぶぐい氏が語っていました)動画と走者コメントを見事に捌いていただき大変感謝しております。しぶぐい氏に代わりまして御礼申し上げます。

ご存じのとおりしぶぐい氏はなかなか表に出てこない方ですので、筆者がこのRTAの解説記事を書くようにしぶぐい氏より依頼を受けました。そこで、今回は筆者が日常的にRTAを行っている『和声の祭典』[2]と『地球の旋律線』[3]について、概要とルール案を説明させていただきます。なお、これらのRTAは後述の理由でSpeedrun.com等にページを作成する予定はありませんので、あくまでルール「案」となります。



2. 各システムの概要


『和声の祭典』及び『地球の旋律線』は、いずれも洗足オンラインスクールにより開発された、音楽理論の自動採点システムです。前者は和声学、後者は対位法の課題を解くもので、複数の旋律を美しく調和させる技法が対位法であり[4]、それにより生じた縦の音の響き(和音)とその進行(和声)を探求する学問が和声学となります[5]

各システムの解答は一定の規則に基づき採点されます。なお、これらの規則については統一された見解があるものでなく、例えば『和声の祭典』では採用している教材のうちより自由度の高い基準を用いており[6]、『地球の旋律線』での採用教材の一つである『パリ音楽院の方式による厳格対位法』では対位法の各教材における基準の比較と考察がなされています[7]。また、これらの基準を適用してなお、各システムの課題にはある程度の自由が残されており、同程度の点数の解答であっても解答者によって内容は異なります。しぶぐい氏がベストオブ謎RTA選手権にて「並走に適した」と評しているのはこのためです。

『和声の祭典』は100点満点の減点方式、『地球の旋律線』は「良い旋律の時に30000点を超えるような感じ」[8]で採点されています。その仕様から、筆者としぶぐい氏は現在『和声の祭典』について「和声学課題集II 全6部100点」、『地球の旋律線』について「全4類 上下声 30万点」のカテゴリでRTAを行っています。以下にそれらのルール案をお示しします。



3. ルール案


3.1. 和声の祭典(和声学課題集II 全6部100点)


A. 『和声の祭典』の和声学課題集 IIについて、「第1部 II7の和音」から「第6部 付録」までの各部より1課題ずつ選択する
- 和声学課題集 Iはより平易な内容になっていますので、初めての方にお勧めです

A-1. 課題の選択はランダムとする
  •  筆者はかなり雑な課題選択システムをExcelで作成しています。必要でしたらお声がけください

A-2-1. 課題の選択はタイマースタート前1分以内に行う

A-2-2. 各課題へのリンクはタイマースタート後に開く

B. 各課題について、100点になるまで解答と修正を繰り返す
  • 見直しをして一発100点を狙うよりもコンピュータにチェックしてもらったほうが速くなります。何回もRTAを行っていると最初の解答でより高い点数が取れるようになっていきます

C. 100点を取得したら次の課題へ進む
  • 課題の順番自体は指定しませんが、固定しておくとスプリットタイムの管理が楽かと思います

C-1. 全6部で100点を取得した時点でタイマーストップとする


3.2. 地球の旋律線(全4類 上下声 30万点)


A. 『地球の旋律線』の和声学課題集 IIについて、「第1類(全音符)」から「第4類(二分音符 移勢)」までの各類と上下声の計八つの組み合わせで1課題ずつ選択する

A-1-1. 洗足オンラインスクールの定旋律を使用する

A-1-2. 旋法は自由とする

A-1-3. 1から14までの定旋律より選択する
  • 15から20までの定旋律は、対位法課題に用いられる旋律としてあまりにも逸脱しているため除外します

A-2. 課題の選択はランダムとする

A-3-1. 課題の選択はタイマースタート前1分以内に行う
  •  『地球の旋律線』に関しては選択内容が豊富なので、1分間でできる限り準備しておく必要があります

A-3-2. 各課題へのリンクはタイマースタート後に開く

B. 各課題について、合計得点が30万点になるまで解答と修正を繰り返す
  • 初めての方は25万点を目標に行うのが適切かと思います。上級者は35万点を目指すのも良いかと思いますが、選択された問題によっては達成不能となる可能性があります

C. 別の課題を解答したあと、先に解答した課題に戻って解答しても良い

C-1. 合計得点が30万点に達した時点でタイマーストップとする
  • こちらについても雑な課題選択・得点計算システムをExcelで作成しています。必要でしたらお声がけください


3.3. オプションのルール


下記は各個人の学習目的に応じて適用の有無を選択可能です。タイムに影響を与えるものもあるため、場合によっては別カテゴリの扱いになるかもしれません。

X-1-1. 各システムの音声機能(再生、クリック時に和音を鳴らす、など)を使用しない

X-1-2. 外部の音声(楽器など)による確認を行わない
  • 各システムの音声、外部の音声共に筆者は使用していません。基本的に使用しないほうが速いですが、『和声の祭典』でシャープやフラットの多い調が出てきたときは欲しくなります

X-2.(和声の祭典のみ)100点取得後、次の課題のリンクを開く前にタイマーを停止させることができる
  • 配信映え用です。タイマーを止めて100点の解答を再生したりしています

X-3. 初回で一定の点数を取得できなかった場合は課題を選択しなおす
  • 現時点では採用していません。筆者の技量だと『和声の祭典』は70-80点、『地球の旋律線』は1.5-2万点あたりにすると程よい手ごたえになりそうです。「初回で」の条件を外すと泥沼になる予感がします



4. 実施例


動画1に『和声の祭典』の、動画2に『地球の旋律線』の実施例を示します。なお、動画1についてはしぶぐい氏よりベストオブ謎RTA選手権応募時の動画をお借りしました。


動画1 『和声の祭典』RTA実施例


動画2 『地球の旋律線』RTA実施例



5. おわりに


以上、『和声の祭典』及び『地球の旋律線』の概要とルール案について説明いたしました。ここで提示したルールに基づくと、全ての課題について解答を事前に用意しておくか、解答を暗記した課題が出るまで選択を繰り返すかすればベストタイムを出せることはRTA走者であれば容易に想像できるかと思います。あくまで対位法及び和声学の練習を目的としているため、筆者やしぶぐい氏は現時点でSpeedrun.comへの申請等は行っておりません。

しぶぐい氏も言及していましたが、このRTAが映えるのは並走です。同じ課題に対して目標となる点数を取るまでの時間を競うスピードランフェイズと各々の解答の美しさを語り合う感想戦フェイズで二度おいしい並走となるはずです。残念ながらしぶぐい氏は筆者との共演がNGとのことですので、今回のしぶぐい氏のベストオブ謎RTA受賞、そして筆者のこの記事を通じて走者が増えることを願っています。





参考文献

 




[2] 洗足オンラインスクール. 和声の祭典.


[3] 洗足オンラインスクール. 地球の旋律線.


[4] 洗足オンラインスクール (2020). 地球の旋律線 News Release.


[5] 島岡譲 他 (1998). 総合和声 実技・理論・分析. 音楽之友社.


[6] 洗足オンラインスクール. 和声学 学修支援システムについて.


[7] 山口博史 (2013). パリ音楽院の方式による厳格対位法. 第2版, 音楽之友社.


[8] 洗足オンラインスクール. 地球の旋律線 システムについて.

2021年5月3日月曜日

聴音RPGにおける先行入力を利用した無停止会話



1. 緒言


聴音RPG【失われた音問村】[1](以下、聴音RPG)の移動の特徴として、筆者は既報にて先行入力の蓄積を報告しました。また、これを利用してエンカウント後スリップを意図的に発生させるための走法、ヴィブラート走法及びトレモロ走法を提案しました[2]

エンカウント後スリップにより実質的な総移動歩数の短縮及びエンカウント数の削減が期待されますが、実際にエンカウント数が削減されるか、あるいは不変なのかは不明です。本報告では、エンカウント後スリップの原理について考察を深めるため、先行入力の蓄積という現象そのものについての詳細な検討を行いました。

筆者はまず、先行入力によってマップのどの地点の情報が得られているか、すなわち、読み込まれている情報が主人公がその時点で存在する位置の情報か、それとも先行入力反映後の情報か、という検証を行いました。続いて、移動以外の先行入力が蓄積されるか検討するため、先行入力によるキャラクターとの会話を試みました。



2. 方法


2.1. マップ情報読み込み


音問村入村許可証を得ずに音問村への橋を渡るとき、右端に到達してさらにカーソルキーを右に押すと図1のとおりのメッセージが発生します。本検討においては図2に示した地点Aから地点Bまでを移動し、図1のメッセージを出すまでのキー操作を先行入力しました。必要となるキー操作は右矢印キー13回(移動12マスとメッセージ出現)となります。
 
 
図1 音問村の入村許可証を所持していないときに表示されるメッセージ



図2 マップ情報読み込みの検討時の移動地点



2.2. 先行入力による会話


先行入力による会話の可能性を検討するため、図3に示した地点Cから地点Dまで移動し、直上のマスのキャラクターと会話するまでのキー操作を先行入力にて行いました。必要となるキー操作は上矢印キー5回、右矢印キー10回、上矢印キー1回、スペースキー4回です。
 
 
図3 先行入力による会話の検討時の移動地点



3. 結果


3.1. マップ情報読み込みの検証


動画1に非エンカウント時の挙動を、動画2に橋の右端でエンカウントした際の挙動を示しました。エンカウントしていないとき、キー操作を終えた時点でメッセージが表示されました。同様に、エンカウント時にはキー操作終了時点でエフェクトが発生されましたが、13回の右矢印キーを入力してもメッセージは発生しませんでした。


動画1 非エンカウント時のマップ情報読み込みの挙動


動画2 エンカウント時のマップ情報読み込みの挙動


3.2. 先行入力による会話


動画3に先行入力による会話の実施例を示しました。地点Dに到達する前に主人公が上を向き、会話メッセージが発生しているのが分かります。先行入力によりキャラクターの前で停止することなく会話することが可能でした。


動画3 先行入力を利用した無停止会話



4. 考察


マップ情報の読み込みの結果から、聴音RPGでは主人公の描画上の位置でなく先行入力反映後の位置の情報を読み込んでいると推測されます。動画1においては地点Bに到達する前に入村許可証に関するメッセージが表示されています。動画2では先行入力反映後の位置が地点Bに到達した時点でエンカウントしたため、入力直後にエンカウントのエフェクトが発生したもののメッセージは表示されなかった(13回目の右矢印キーが反映されなかった)と考えられます。

これらの推測が正しいものとすると、エンカウント後スリップという名称は正確でなく、実際にはスリップ後の位置でエンカウントしていたものが、先行入力によって移動中にエンカウントの情報を取得したためにスリップしているように見えるだけである可能性があります。このことから、エンカウント後スリップによるエンカウント数削減効果は期待できないことが示唆されました。

一方で、動画3に示したとおり、先行入力は移動のみならず会話にも適用可能であることが分かりました。会話の先行入力をスリップ中に行う都合上、移動の先行入力についても十分に行う必要があり、事前にトレモロ走法による長距離の移動が要求されます。その際にエンカウントが生じると先行入力が解消されるため、スピードランにおいては基本的に煉瓦村や建物内のような非エンカウント地帯での適用を優先すべきです。このテクニックにより会話のための一時停止が不要となり、1回の会話あたり1秒弱、全体として10-20秒の短縮に繋がることが予想されます。




5. 結語


先行入力の性質に関する詳細検討により、先行入力反映後の位置情報が即時に取得されていることが示唆されました。これにより、エンカウント後スリップという名称は正確でなく、スリップによるエンカウント数削減は期待できない可能性があることが判明しました。一方で、先行入力は会話にも適用されることから、スリップ中に会話を行うことで会話に必要な停止時間を削減できることが明らかになりました。今後はスピードラン中の各会話についてキー操作の最適化を行い、無停止会話を実践していきます。




付録


動画S1 動画1のスロー再生

動画S2 動画2のスロー再生





参考文献


[1] 洗足オンラインスクール. (2017). 聴音RPG【失われた音問村】. JavaScript版.


聴音RPGのRTAにおけるクリアタイム予測法の検討

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