2021年4月30日金曜日

聴音RPG攻略の手引き 第一部

 

1. はじめに


これから複数記事にわたって、聴音RPG【失われた音問村】(以下、聴音RPG)[1]の攻略方法について説明していきます。攻略ルートそのものについては筆者の解説によるスピードラン動画[2]をご覧いただくこととして、これらの記事では聴音RPGの攻略に必要な音感の習得方法と各モンスター(聴音RPGの世界観に従い、以下「音霊」と呼称します)との戦い方を記載します。



1.1. 聴音RPG攻略に必要なもの


大雑把に言って、聴音RPGの攻略には次の二つが必要になります。もちろん聴音RPG自体がこれらを身に付けるためのゲームですので、プレイ前に用意しておく必要はありません。

・ごく基本的な楽典の知識
・絶対音感または相対音感


1.1.1. 楽典


楽典とは、楽譜の読み書きに必要な約束事です[3]。音楽ジャンルによってところどころ用語が異なる部分はあるものの、いわゆる音楽理論に進む前の共通言語にもなりますので、学んでおくと何かと便利です。筆者がTwitchでの作曲配信中に何か独り言を言っているかと思いますが、その言葉の意味が分かるという効能もあります。聴音RPGでは選択肢に音程(短二度、増四度など)や和音の種類(長三和音、導七和音)が出てきますので、楽典の知識が無ければ聞こえてきた音どころか選択肢すら分からないという状況に陥ります。洗足オンラインスクールには楽典の解説もあります[4]し、この攻略記事は楽典の知識を前提としていますので、用語が分からなくなったときには該当ページを参照することをお勧めします。


1.1.2. 絶対音感と相対音感


絶対音感は、ある一つの音の高さを、他の基準となる音なしに特定する能力です[5]。筆者が所持しているのはこちらで、3歳でピアノを習い始めた時から、毎週のレッスンの終わりに音感のトレーニングをさせられたのを覚えています。一方で、ある基準となる音があったとき、別の音との関係を音楽的な文脈から把握し、それによってその音の高さを捉える能力が相対音感です[5]。音楽とは1音のみより成るものではなく、それゆえに相対音感を所持していれば実際上問題ないものと思います。

聴音RPGは絶対音感、相対音感いずれを用いても攻略できるように設計されていますので、この記事はそれぞれの場合を想定して攻略法を記載します。なお、絶対音感は幼少期の限られた期間にしか習得できないというのが通説です[6]。相対音感については聴音RPGや他の洗足オンラインスクールのコンテンツを通じて身に付けられるという想定ですが、私自身の経験に乏しいので保証はできないというのが正直なところです。また、書店を回って聴音に関する書籍を探しましたが、ほとんどが幼少期の絶対音感の形成に関するものか、音楽大学入試向けの高度なものであり、大人の初心者向けの資料は見つけられませんでした。



1.2. 聴音RPGの位置づけ


音楽大学入試の聴音では、一つ又は同時に演奏される複数の旋律や一連の和声の流れを聞き取ります[7][8]。聴音RPGはこれらの入試課題から単一の要素を抜き出したものであり、それゆえに入試聴音とは別種の難しさがあります。聴音RPGでは音霊が音を出してから数秒間の解答時間がありますが、旋律聴音や和声聴音では聴取すべき音が音楽の時間軸に沿って流れていきます。一方で、その音楽的文脈の存在のため、音楽大学入試の聴音の場合はある程度次の音が予測できてしまうことがあります。

もちろん聴音RPGで培った音感が音楽大学入試や実際の音楽で行う聴音の補助となるのは確かなのですが、聴音RPG攻略のために音楽大学入試用の書籍を読むというのも本末転倒の感が否めません。各論では、洗足オンラインスクールのコンテンツを利用しつつ、聴音RPG攻略に直接役立つ情報を記載していきます。



1.3. 音を聴くことと音楽を聴くこと


そもそも聴音RPGのスピードランに固執すること自体が本末転倒ですので、聴音RPG攻略の各論に進む前に自戒の念を込めて記しておきます。音声1はとある作品の和音を一つだけ切り出してシンプルにしたものです。聴音RPGをクリアされた方なら属七和音を想起するでしょうし、絶対音感のある方なら譜例1のような和音を思い浮かべたでしょう。
 
 
 
音声1



譜例1 変イ音上の属七和音

 
 
しかしながら、それは厳密には正確ではありません。この和音はベートーヴェンの交響曲第五番第一楽章の20小節目からオクターヴ等の重複を削除したものであり、実際には譜例2のような記載となっています[9]。これはドイツの増六と呼ばれる和音で[脚注1]、属七和音と構成音の高さは同じですが和声上の扱いが異なります。


譜例2 変イ音上のドイツの増六和音

 
 
このように和音だけでなく、たとえ一つの音であったとしても、音楽の文脈の中で多様な働きを持つものです。聴音RPGをクリアされた暁には、是非スピードランによって基礎となる音感を維持、向上させつつ、日常に溢れる音楽を聴き取りながらそれぞれの音の意味に想いをはせていただければと思います。もちろん洗足オンラインスクールにはクラシック音楽の音楽理論を学ぶ方にも最適なコンテンツがありますので、いずれそれらについても紹介します。





脚注


[脚注1] 一般にイタリアの増六として紹介される例[10]ですが、ホルンのみながらドイツの増六を特徴づけるEsを鳴らしているためドイツの増六の例として紹介しました。楽器法上の制約もあるため、多義的に解釈されるべき箇所であると考えています。






参考文献


[1] 洗足オンラインスクール. (2017). 聴音RPG【失われた音問村】.  JavaScript版.

[2] まっつ. (2021). 第13回RTA BootCamp:聴音 RPG 【失われた音問村】. RTA BootCamp, 第13回.

[3] ヤマハ株式会社. 楽譜について学ぶ.

[4] 洗足オンラインスクール. 楽典 解説.




[8] 洗足オンラインスクール. オンライン聴音 810.

[9] Beethoven, L. V. Symphony No.5, Op.67. Breitkopf und Härtel.

[10] Hutchinson, R. (2017). Music Theory for the 21st-Century Classroom.

2021年4月22日木曜日

聴音RPGにおけるエンカウント後スリップの新規走法による再現

 

 1. 緒言

聴音RPG【失われた音問村】[1](以下、聴音RPG)における特徴として、高いエンカウント率が挙げられます。本作品は音感の向上を目的としているため、音霊(おんりょう、本ゲームにおける敵モンスターの呼称)に頻繁にエンカウントすることはその目的に合致したものと言えます。しかしながら、スピードランにおいてはエンカウントの回数によりクリアタイムが大きく左右されるため、基本的には戦闘回数をより少なくすることが重要です。

動画1に、音霊とエンカウントした際のゲームの動きを例示しています。エンカウント時には画面が白く点滅し、背景音楽が消失するという演出がなされています。一方、筆者はスピードラン中に、この演出が入ったあとも操作キャラクターが停止せず、数マス滑るという現象に遭遇しました。

 

動画1 通常のエンカウント時の挙動


そしてこの度、上記のエンカウント後のスリップ現象を意図的に発生させる走法を二つ特定しました。これにより移動距離の短縮、ひいてはスピードラン中の合計エンカウント数の削減に繋がることが期待されます。特定された二つの走法をそれぞれ「ヴィブラート(Vibrato)走法」、「トレモロ(Tremolo)走法」と名付け、本稿ではこれらの新規走法に関する詳細説明と考察を行います。


2. 新規走法

 

2.1. ヴィブラート走法

ヴィブラート走法は、2方向のキーを素早く交互に押すことによって斜め方向にエンカウント後スリップを生じさせる方法です。キーを押す速度は可能な限り速いほうが望ましいものの、同時に複数の方向キーを入力してしまうと方向転換を受け付けなくなる[2]ことから、それぞれのキーを押して離したことが体感できる程度の速さに留めておくのが良いようです。

動画2に示したとおり、移動中及びスリップ中の動きが2方向に揺れているように見えることから、伸ばした音の高さを揺らす演奏技法であるヴィブラート(Vibrato)より命名しました。素早い入力の結果、実際の移動よりも速く方向転換が生じていることが分かります。


動画2 ヴィブラート走法とエンカウント後スリップ


2.2. トレモロ走法

ヴィブラート走法が2つのキーを用いるのに対し、トレモロ走法では1つのキーを連打することでスリップを生じさせます。連打できているということは当然キーを押して離すことを繰り返しているわけですので、少なくとも人間に可能な範囲では速ければ速いほど効果が期待できるように思います。

トレモロ走法時の挙動を動画3に示しました。動画1と操作キャラクターの足元を比較したとき、明らかに動きが速くなっていることが分かります。なお、走法名は同じ高さの音を繰り返し演奏する技法であるトレモロ(Tremolo)より命名しました。


動画3 トレモロ走法とエンカウント後スリップ


3. 考察

 

3.1. 発生原理

筆者は以前、方向転換の際に2方向のキーが同時に押されている場合、0.4秒程度の停止時間が生じることを報告しました。同時にその対策として、移動中に一旦キーを離してから次の方向キーを入力し、滑らかに方向転換を行うノンレガート走法を提唱しました[2]

聴音RPGでは通常の移動でも1マスのスリップが発生しており、ノンレガート走法はこのスリップ中の先行入力を利用しています。この先行入力が蓄積するらしく、ノンレガート走法を高速化してスリップ距離を伸ばしたものがヴィブラート走法、さらに使用キー数を1個に減らしたものがトレモロ走法であると言えるかと思います。これらはあくまで推測であり、実際の原理は依然として不明です。


3.2. 実用化にあたっての検討事項

ヴィブラート走法及びトレモロ走法を実用化する際には、下記の検討が必要になります。

第一に、各走法そのものに対する検討です。動画で見る限りでは問題なさそうですが、各走法を使用中、通常の移動と比較して速度が低下することがないか計測しなければなりません。また、スリップのエンカウント率に対する影響の有無も調査すべきです。例えば、エンカウントした瞬間に次のエンカウントまでの歩数が決定し、スリップによってその歩数が消費されてしまう場合はスリップを発生させる意義がありません。

第二に、スピードラン中の新規走法の使用方法についても検討が必要です。そもそも聴音RPGのスピードランでは必須アイテムの購入にゲーム内通貨(ゴールド)が必要で、ほとんどの場合は音霊との戦闘によって手に入るものです。さらに、スピードラン用のルートでは取得ゴールドの合計が必須アイテム購入に満たないこともあります。1時間のスピードランのうち、必須アイテムを全て購入するまでの45分程度はエンカウント数の削減にリスクが伴うことから、実質的には終盤まで新規走法の使用が制限されます。したがって、これらの走法による時間短縮は最大でエンカウント2-3回分程度となる見込みです。

使用タイミングだけでなく、2走法の使い分けも重要な検討要素です。スリップ時の挙動のコントロール方法について詳細が判明しておらず、また、キーを交互に押したり連打したりする行為はいずれもそれなりの筋力を使うので、これに関しては一般化されるものでなく走者各人が体得すべきものと言えます。



4. 結語

以上、聴音RPGにてエンカウント後スリップを発生させるための新規走法について紹介しました。今後これらの走法の詳細を検討し、聴音RPGスピードランの時間短縮に繋げたいと思います。




参考資料

 
[1] 洗足オンラインスクール. (2017) 聴音RPG【失われた音問村】.  JavaScript版.

[2] まっつ. (2021) 第13回RTA BootCamp:聴音 RPG 【失われた音問村】.  RTA BootCamp, 第13回; 0:09:28 - 0:11:15.

聴音RPGのRTAにおけるクリアタイム予測法の検討

  1. 緒言 聴音RPG【失われた音問村】 [1] のRTAでは、ゲームの進行に必要なアイテムを購入するためにお金稼ぎを行う必要があります。聴音RPGにおいて、お金(通貨単位:ゴールド)は基本的に敵モンスターである音霊を倒すことによってのみ手に入れることができます。したがって、...